スペインの劇作家、フェデリコ・ガルシーア・ロルカによる官能的な悲劇『血の婚礼』が、9月~10月に東京・大阪で上演される。
スペインのアンダルシア地方を舞台に、実際に起きた事件をもとに執筆された本作は、1人の女性を巡り、2人の男性が命をかけて戦う様を描いていく。
演出は、国内外の戯曲や歌舞伎の演出も手掛ける杉原邦生が担当。そして1人の女性を巡り争う男性・レオナルド役を木村達成、花婿役を須賀健太、2人の間で揺れ動く花嫁役を早見あかりが演じる。
2.5ジゲン!!では、木村達成と須賀健太にインタビューを実施。ハイパープロジェクション演劇「ハイキュー!!」以来、5年ぶりの共演を果たした2人は、今回ライバル役を演じることとなる。共演が決まった時の気持ちやお互いへの想い、公演にかける意気込みについて、和気あいあいと語ってもらった。
5年ぶりの共演、フラットな気持ちで作品に向き合えている
――5年ぶりの共演ということでファンの方はワクワクしていると思います。ハイパープロジェクション演劇「ハイキュー!!」ではバディを演じられたお2人が今回は敵役になるわけですが、現時点でどのようなお気持ちですか?
木村達成:期待しかないですね。
須賀健太:(クスっと笑って)ほんとかよ…(笑)。
木村:(笑)。今回舞台となる時代では、親に仕向けられた結婚をしなければいけないという問題がたくさんあったと思います。そんな中で、僕は唯一心が通い合った女性に対して、「お前は俺じゃなきゃダメなんだ」という気持ちを持ち続ける役です。
そういう役を演じるには、行動面でも常人とは思えないような考え方を理解していく必要があります。できるだけ自分に嘘はつきたくないし、作品に対しても嘘をつきたくない。舞台上で一緒に芝居をする場面は少ないものの、突き詰めるところまでやっていく相手が健太ですごく良かったなと思います。
須賀:今回演じる役は、今まで達成と一緒にやってきた作品とは全然違うので、自然に「今作は」というふうに切り離して考えられるところがあります。もちろん一個人として、再び共演できるのはうれしいですし、お互いに成長したところを見ることができるのが楽しみです。ただ、今回は、という気持ちもきちんと持っているので、すごくフラットに役や作品に向き合えています。
でもやっぱり大変な芝居にはなりそうですね。作品の中で、僕のほうが人として変化していくポジションだと思うんですよ。もちろんそこを魅せていきたいですし、変わっていくことへのつらさ、しんどさを背負って演じなければならないと思っています。
――確かにオープニングとラストとでは、須賀さん演じる「花婿」のイメージがガラッと変わるので大変そうですね。
須賀:そうですね。花婿の内面部分が上演台本でどのぐらい描かれるか、今の段階では分からないのですが、地続きで感情が変わっていくようにしていきたいと思っています。感情ぶつ切りで、「はい! この人は闇に落ちました!」という感じにはならないように、きちんと順を追って役を作っていきたいと思っています。
僕たち2人が『血の婚礼』を上演する意味を見つけていきたい
――お2人の役柄に絡んでくる早見あかりさんとは、どんな芝居を見せることができそうですか?
木村:普段の早見さんは、僕とタイプが似ているのかな…と思ったんですよ。
須賀:(間髪入れずに)めっちゃ似てる!
木村:考え方とかフランクな感じとか。
須賀:(2人を見ていると)まさに海外みたいです。
木村:(笑)外国人同士の絡み方、みたいな?
須賀:3人で並んだ時に「うわっ! 海外~」って思いました。人との接し方とかフランクさも含めて、全体的な雰囲気がね。
木村:原作者の出身地であるスペインは、開放的というか、情熱の国というイメージがあって、「フェデリコ・ガルシーア・ロルカはどういう人だったのか紐解きたいけれど、どこで何をすればいいのか分からないんだよね」って早見さんに言ったことがあったんです。すると早見さんは「〇〇へ行ったら、こういうのを見ることができるよ」と返してくれました。余計な前置きの言葉を使わずに、スッと心で会話をしてくれる方なんですよ。
ロルカの作品は、心と心のぶつかり合い、魂の投げ合いみたいなものを描いていることが多いので、この作品をやる上で“人間性”というのがすごく大切な1つのピースだと思うんですよね。
須賀:よく分かる。達成とあかりさんが似ているというのは、戯曲的な仕組みでいうと正しい感じがするね。
木村:だからある意味、芝居に説得力を持たせられるかな…と。
須賀:物語の中でも2人は普通とは少し違うつながり方をするから、そういう意味では面白くなりそうですね。
――お2人とも役に共感しながら演じていけそうですか?
須賀:共感するって、言え言え!(笑)
木村:共感しますよー。「結婚式、ちょっと待った!!」タイプですね(笑)。
須賀:(笑)。そう思われちゃうね。…とはいえ、ここは日本ですし、渋谷や大阪で上演する舞台ですから。個人的に、舞台はどこにでも行けるし、どういう世界にでも連れて行ってくれる半面、自分たちが現実に生きてるものがあってこそ出来うるものだと思うんですよ。
なので、現実とまったく切り離して考えたくはないし、現代における『血の婚礼』というか、今やるべき意味を見つけていきたいです。僕たちがスペイン人に見えることがゴールではなくて、僕らがやる意味を見つけていかなければいけないと思いますね。
木村:絶対そうだよ。気付いたらめちゃくちゃ吹き替えみたいな舞台になっていたら嫌だもんね。
一同:(爆笑)
木村:役作りに対して、気持ちがぶれたらそっちへ転がってしまう瞬間もあるかもしれないわけですから。
須賀:海外の戯曲だと、洋画を観ているようだなあと感じることもあるしね。
木村:そういう面で言えば「レオナルド」という西洋の名前なのは僕だけだから。それも「佐々木」とかに変えちゃえばよかったのに…。
須賀:何でレオナルドが佐々木になるの!(笑)
木村:だって健太は「花婿」なんだから、僕のも日本語にしてくれたらよかったかなってね。じゃあやっぱり「木村」?
須賀:「木村」はありだよね!(笑)
木村:そういう振りきり方もなくはないよね。まだそこらへんは変えられる段階だから…(笑)。
須賀:「木村」と「花婿」のバトルみたいな。
木村:もしそういう設定にしたら、お客さんが最初にニヤっと笑っちゃうかもしれないけどね(笑)。でも、レオナルドという役だけれど、どこまで木村達成でいられるか、また自分が考えるレオナルド像にどこまで近づけるか…ということは考えていますね。木村達成でも何者でもない感じは、この作品に注ぎ込まなくてはいけないと思っています。
――須賀さんが演じる「花婿」の母親役は、安蘭けいさんが演じられます。強烈な印象の母親ですが、どのように絡んでいきそうですか?
須賀:台本を読んでいても、すごくイメージできるというか、深く闇を背負ってくれそうな感じがしますよね。あの母親じゃなければこの結末にならなかったのでは…という部分があります。
木村:花婿の母親は、レオナルドの家系に対してめちゃくちゃ憎悪があるよね。
須賀:人って、人格形成される時期に母親が密接に関わっているから、母親の気持ちや思想みたいなものをある程度受け継いでいくものだと思うんですよ。僕が演じる花婿にも、母親の感情や思想が宿っています。それがどんどん劇中で大きくなっていく面があるので、「この母親だったからこうなってしまった…」という感じを出せたらいいなと思っています。
――結構強烈ですよね。実際にお母さんがあんな感じだと、どうですか?
須賀:いやいや、怖すぎますよね。そういう意味で僕の親はいい親だったなと。僕が子役の頃は、母が現場までついて来てくれていたけれど「挨拶と返事をきちんとしなさい」ぐらいしか言われたことがありませんでした。こういうことを言いなさいとか、こういう振る舞いをしなさいといった細かいことは言われなかったので、今、普通の感覚でいられるのは親のおかげだなと思います。そこは感謝してます。
僕は親を尊敬しているからこそ、今回の花婿という役は客観的に見て「これは大変だな~」と思うので、そういう感情は演じるにあたって使えると思っています。
印象的なメインビジュアル 撮影現場でのエピソードは?
――ところで、先日公開されたメインビジュアルがとても素敵で印象的でした。
※取材は6月実施
木村:僕はわりと楽なポーズだったので、あまり苦しくなかったのですが、それこそ健太と早見さんは大変だったと思います。
須賀:あかりさんが1番しんどそうだった。あと3人の(ポーズを作って)こういうやつ…。
木村:ああー!
須賀:あれがめっちゃ大変だった。後半、僕は絶叫してましたけどね。「早く撮ってーー!」って。
木村:(ポーズをとりながら)僕にみんなが寄りかかってポーズをとったものは、一切使われないのかな?
須賀:あー、やったやった! あれはパンフレットに載るんじゃないの?
木村:パンフレットに載るのか、ボツになるのか、お楽しみに…というところかな(笑)。
今でも今回の共演は「ドッキリ?」と思っている
――ファンの皆さんに「ここを観てほしい!」というアピールポイントはありますか?
木村:まず、お客さまが僕らの共演を熱望してくださったこと、共演できる形を作っていただいたことに、ありがたいという気持ちがあります。それはこれまで僕たちが、歯を食いしばって頑張ってきた結果なのかな…と。今ですらこの舞台はドッキリなんじゃないかと思っているぐらいなんですよ(笑)。
須賀:僕らに作品を託してくれるというのはすごいことだし、さらに「ハイキュー!!」以降、お互いがそれぞれ舞台に出演してきて、“作品1本の重み”みたいなものをより理解してきています。その中で、今回2人がセンターとして共演するというのは、あの頃とは違ううれしさがあるし、あの頃みたいに勢いが先行してはいけないから、そこはチャレンジだと思います。
木村:僕は、勢いでいきたい! 昔の戯曲を改めて日本人の僕たちが演じるということを考え出したらキリがないのは分かっていますから。最初に感じたものが1歩踏み出すためのきっかけになって、躊躇していたものが取っ払われるんだと思うんですよ。
躊躇している時間はもったいないし「1回やってみよう!」ってできるのが舞台の強みだと思うから、そこは挑戦ですね。もちろんお互いに違うフォーカスに入ってしまった瞬間、演出の杉原さんや他のキャストのメンバーが正してくださると思いますし。舞台はみんなで作るものですから、できるだけ誰かに助けてもらうという方向性を自分たちで切り開いていく必要があるし、誰かに正してもらうことは重要だと思っています。
たぶん健太も僕も「あいつ、放っておけない」と思わせるような人間だと思うんですよ。「放っておけない」って最強のポテンシャルだから、放っておかれないこと、1人で走って行ってしまわないこと、みんなで足並みをそろえることも必要だということを理解しながらやっていけば、絶対に悪い作品にならないと思います。
舞台を通じて深めた2人の絆でお客さまへ想いを届けたい
――改めてファンの方へメッセージをお願いします。
須賀:いつも応援してくださるファンの皆さんは、応援してくださっている期間が長ければ長いほど、今回2人が共演するということが響いて、うれしく思っていただいていると思います。その分、僕らはその期待以上のものを見せていかなければいけないですし、「また共演できてよかったね」で終わってしまったら僕らの負けですから。「『血の婚礼』に生きる2人が良かったね」と言ってもらえるところへ持っていけるように頑張りたいと思いますので、劇場でお待ちしております。
木村:「ハイキュー!! 」の時も、爆発的なエネルギーのもと2人で力を合わせ、全力で舞台上を走り回っていました。絶対にお客さんに気持ちが届くはずだと思いながらも、不安で不安でいっぱいでした。僕たちはそれを乗り越えた絆がありますので、今回の共演をうれしいと思ってくださるお客さんがいるのだと思います。
でも今は「ハイキュー!! 」で共演していた当時ではありません。「須賀と木村の『血の婚礼』、ヤバかったよね」って思ってもらえるような、“「ハイキュー!!」の2人”じゃなくて、“『血の婚礼』の2人”に書き換わるような何かをやらなければならないと思っています。ぜひ劇場にいらしてください。お待ちしております!
取材・文:咲田真菜/撮影:梁瀬玉実
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