文豪の名を持つキャラクターたちがヨコハマを舞台に戦う異能力バトルアクション「文豪ストレイドッグス」。コミックスは現在22巻まで発売され、朝霧カフカによるスピンオフ小説シリーズはシリーズ累計1000万部突破したと人気作だ。
文ステと呼ばれる舞台「文豪ストレイドッグス」 シリーズも初演の2017年から、痛快なアクションと独創的な演出、深い解釈に基づいて演じられるキャラクターたちが多くのファンを魅了してきた。2022年6月にはシリーズ第7弾となる舞台「文豪ストレイドッグス STORM BRINGER」が上演される。
2.5ジゲン!!では今回、主人公・中原中也を演じる植田圭輔、シリーズ初登場となるポール・ヴェルレエヌを演じる佐々木喜英に対談取材を実施。演じる役への思いから、初共演当時の思い出、お互いの印象などを聞いた。
――佐々木さんはシリーズ初出演となります。まずは出演が決まった際の気持ちを教えてください。
佐々木喜英(ポール・ヴェルレエヌ役):こうして続いている作品に参加させていただけるのは本当に嬉しいことですし、これまでシリーズを紡いできたキャストの皆さんの思いをしっかり背負ってステージの上に立ちたいと思っています。植ちゃんとは何度も共演しているんですが、敵対する役ばっかりで、いつか味方になる役もやりたいなって思っていたんですね。
植田圭輔(中原中也役):(笑)。
佐々木:今回最初にお話を頂いたときに、中也の兄の役だって聞いて、そのときは「もしかして仲間になれるのかな!?」って思ったら、今回も敵対しているシーンが多くて(笑)。
植田:一番敵対してるよね。
佐々木:本当にそう(笑)。でもこれだけお芝居で植ちゃんと絡むのは初めてなので、そこも見どころだと思いますし、ぜひ注目してほしいです。
――植田さんは座長としてどんなカンパニーを目指していますか。
植田:座長として引っ張るとか、そういうの特になくても大丈夫な人たちしかいないので、僕は何もしないでおこうと思っています!
一同:(笑)。
植田:座長どうこうというよりも、中原中也を軸とした物語なので、自分がやるべきことをしっかりとやっていれば、ちゃんとなるべき形になっていくんじゃないのかなと。初参加の方もいらっしゃいますけど、基本的には制作陣含めてずっと携わってくれている人がほとんどで。中屋敷法仁さんの演出をはじめとするドッグスチームの色を理解している人が多いんですよね。だからこそ、僕は自分のやるべきことを精一杯やっていこうと思っています。
――本作は2021年に発売されたばかりの小説「STORM BRINGER」が原作となります。アニメがない状態での舞台化となりましたが、その点についてはいかがですか。
植田:めちゃくちゃ速いですよね。前作の舞台「太宰、中也、十五歳」の千穐楽で、この作品の上演を発表したのですが、その際のファンの皆さんの反応や反響がすっごくて。会場がどよめいたのをすごく覚えていて、それだけ原作がすでにたくさんの方に愛されているんだなっていうのを実感しました。それに、シリーズを通して中原中也としては初の試みとなったので、この作品が決まったときはまずワクワクしましたね。
佐々木:今までたくさんの2.5次元作品に出演してきましたが、自分が初めてそのキャラクターに命を吹き込んで、自分が最初に言葉を発するっていう経験はあまりなかったんですね。「STORM BRINGER」はアニメ化もされていない、ポール・ヴェルレエヌは声優さんも決まっていない、その中で一から手探りで役作りをしている環境が新鮮でもあり、すごく久しぶりだなって感じながら、作って壊してを繰り返しながら取り組んでいるところです。
――役作りについてお伺いします。植田さんは今作で16歳の中原中也を演じます。前作で演じた15歳の中原中也からの変化や、今作で特に意識している部分を教えてください。
植田:まずは1年経っていることと、羊という組織の王から、ポートマフィアという大きな組織の一構成員、1人の人間になったっていうところが一番大きいのかなと思います。彼は言葉以上に仲間想いな人ではあるんですが、そういった仲間を大切に思う部分や誰かを嫌うっていう人間らしい部分は変わらずにいたいなとも思っていますね。今作では「自分が人間なのか否か」というところが作品の肝になる部分ではあるんですが、中也は人間じゃないと言われながらも一番人間らしい行動を取っていて、いい意味で矛盾しているめちゃくちゃ面白いストーリーなので、今まではあんまり意識していなかったんですが、今回は“漂うこと”を一番意識しようかなと思いながら挑んでいます。
――佐々木さんは今作初登場のポール・ヴェルレエヌを演じます。現時点では役をどう捉えて稽古に挑まれていますか。
佐々木:そうですね、大切にしたいと思っているのは中也に対して救済したいという気持ちです。そこを強く表現していきたいなって思っています。いつもは2.5次元では原作のイメージをすごく大切にしたくて、声優さんのセリフも毎日聴いて役に落とし込んでっていう作り方をしているんですが、今回はそれができないので、一から作っていく作業をしていて。こういう喋り方をしていいのかなとか、こういうトーンやスピード感でいいのかなっていう疑問が常にあるんです。残りの稽古期間でしっかり作っていきたいなと思っています。
――作中ではヴェルレエヌは中也を弟と呼びますが、佐々木さんから見て植田さんを弟のように感じる瞬間はありますか。
佐々木:弟のようにかぁ(笑)。見た目はすごい弟っぽいなって思います。
植田:じゃあ中身は違うってことか(笑)。
佐々木:中身は弟っていうよりも、同い年くらいの感覚ですね。僕より植ちゃんの方が堂々としているし。楽屋でもすごく話しかけてくれるし。だから僕としては、見た目は弟、中身は同級生っていう感じですかね。
――逆に植田さんから見て、佐々木さんを兄のように感じる瞬間はありますか。
植田:そりゃもう、めちゃくちゃ大人なんで。
佐々木:いやいやいや。
植田:佇まい、立ち居振る舞い、そういうものがすごく大人なので、それはもうお兄さんだなって思います。ヒデくんは自分に甘い部分がほぼなくて、高いところに目標を置いている人だと感じます。なので、そこを目指すための下準備というかベースも他の人よりもすごく高いところにある。だけどその高いところがヒデくんの中での最低ラインっていうのが見えるので、そりゃあ演出家や俳優仲間から信頼されるよなって。行動で示すタイプの俳優さんだなって感じています。
――キャリアの長いお二人ですが、共演してお互いの印象は変わりましたか。
植田:ヒデくんは全然裏切られたことないですね。美して、クオリティが高くてっていう印象がすごく強くて。テレビでヒデくんのアーティスト活動を特集している番組とかを観ていたので。
佐々木:え! めちゃくちゃ昔のやつじゃん(笑)。
植田:そうよ、僕は知ってるんだから。共演する前から、バイトしながら指くわえて観てたんだから(笑)。いざご一緒してみて、裏切られたとはちょっと違うんですけど、自分が想像していたよりも、もっと謙虚で努力家な方なんだなっていうのを感じましたね。
――意外に感じた一面はありましたか?
植田:ゲラ。笑いのツボが浅くて、それが一番意外だったかもしれないです。
――佐々木さんはいかがですか。
佐々木:地方公演とか行くと植ちゃんが率先してみんなをご飯に連れて行ってくれたのをすごく覚えていますね。
植田:懐かしい~! 神戸だよね?
佐々木:そうそう!で、それがあったからキャストのみんなの距離も縮まったと思うので、みんなをまとめてくれる存在っていう印象が強いですね。
――何度も共演されていますが、共演を重ねる中で新たに見えてきた部分はありましたか。
植田:いい役者さんで、いい人柄で、それがひっくり返るような出来事が何も起きないんですよね。自分と真逆の作り方をする人で、だからこそ近くで見ているとすごく刺激的ですね。
佐々木:植ちゃんとは楽屋が一緒になることが多かったんですけど、化粧台の足元に空間があるんですよ。植ちゃんはその狭い空間にちっちゃくなって寝ていることが多くて、可愛いなって思いました。
一同:(笑)。
――中屋敷さんの演出はいかがですか。
佐々木:本当に斬新だなって思います。原作自体が重力の戦いを描いていたり、すごく(舞台化するには)難しいことをしていて、それをどう表現するんだろうって思って見ていたら、自分の中にはない発想ばかりが出てくるので、毎回の稽古が楽しみです。あと演出面でいうと、振付のスズキ拓朗さんが短大時代に通っていた演劇学校の先輩なんですね。当時仲間で集まって僕が振付を考えたり拓朗さんが振付を考えたりしていて、本作がそれ以来の再会になったのですごく素敵なご縁だなって思っています。
――植田さんから見た、中屋敷さんの演出の魅力はどんなところですか。
植田:僕なんかが言うのも恐れ多いんですが、ずっと裏切り続けるところですかね。斬新で、想像もつかなくて。最初は「これをフラフープで表現します!」って言われて、「本当に!?」って一瞬なるんですよ。だけど、結局稽古が進んでいくと、それしかないってなるんです。中屋敷さんは4つくらい先を見ていて、僕らの思考なんて遠く及ばない方なので、すごく信頼しています。その割にダメ出しはしない人なので、そのあたりの塩梅が絶妙な演出家さんだなと思います。言われないなら平気って思っちゃうタイプの人は置いていかれますね。それこそカンパニー立ち上げの頃は、鳥越裕貴とか橋本祥平とかとよく話し合っていましたし、みんなで高めあってきた記憶がありますね。
――本番楽しみにしています。では最後にファンへのメッセージをお願いします。
植田:もっともっと多くの方に僕たちが作っている舞台を観てもらいたいという気持ちが強いので、少しでも「観たい」と思った方はぜひ一歩踏み出して劇場に足を運んでくれたら嬉しいです。あと、最近の舞台配信の技術はすごいです!なのでそれぞれの場所でも、舞台を楽しんでいただけたらと思います。
佐々木:作品自体は2.5次元作品ですが、僕自身はあまり2.5次元っぽくないなって思っていて。動いている絵がなかったり声優さんが決まっていなかったりっていう中で、ゼロから作っている状態なので、普段とは違うお芝居の領域まで行けたらいいなって思っています。あまり縛られない自由な演技方法で、また新しいものを皆さんに届けられたらなと思っているので、ぜひ配信も駆使してたくさん観てもらえたら嬉しいです!
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「違うタイプの役者」としながらも、言葉の端々に互いに寄せる信頼が垣間見える対談となった。原作で480ページ超えの怒涛の物語は果たしてどんな形で目の前に現れるのか。これまで以上に想像のつかない舞台「文豪ストレイドッグス STORM BRINGER」は6月24日(金)に幕を開ける。再び劇場がヨコハマと化す瞬間を心待ちにしよう。
取材・文:双海しお/撮影:梁瀬玉実
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