2019年4月、韓国で「舞台、照明、映像の恍惚な三位一体」「実際に宇宙の中にいるような感覚に陥る」と注目を集めたミュージカル『シデレウス』。その日本版公演が2022年6月17日よりスタートする。
『シデレウス』は、その時代にタブーとされた「地動説」を研究するガリレオ・ガリレイと、彼にそのきっかけを手渡した若き数学者ケプラー、そしてガリレオの娘・マリアによって繰り広げられる3人芝居作品。真実の論拠を手繰り寄せるために歩みを止めないガリレオとケプラーのセリフの数々は、現代にも通用する問題提起となりそうだ。
今回、ガリレオ・ガリレイ役を石井一彰(オリオン公演)、鮎川太陽(ペガスス公演)、井澤勇貴(ペルセウス公演)、財木琢磨(カシオペア公演)が務めるクワトロキャスト編成で上演される。
2.5ジゲン!!は本稽古直前の座談会に潜入。彼らがこの先どのようにして本作を作り上げていくのか、その礎となる貴重な話の数々を押さえることができた。
「僕らの感情が方程式となる」
――キャスト陣の印象についてお聞かせください。また過去に共演された方はいらっしゃいますか?
井澤勇貴(以下、井澤):太陽くんは直近の舞台で一緒でした。共演者の皆さんは高い評価と実力のある方々ばかり。クワトロキャストでお送りする本作はチームごとに色々な変化が生まれそうです。
財木琢磨(以下、財木):僕は皆さんとは「はじめまして」なので、これから関係をしっかり築いていきたいと思います。
石井一彰(以下、石井):今回のキャストが発表されたときからすごく楽しみにしていました。皆さん舞台や映像で活躍されている方々ばかりなので。全12人のキャストで一つの作品を切磋琢磨しながら作り上げていけることにわくわくしています。
鮎川太陽(以下、鮎川):僕は2.5次元舞台以外でここまで本格的なミュージカルは初挑戦なんです。だから新境地を開く機会をいただけてとても嬉しいです。声優さんやアーティストさんなど、様々なジャンルの方が共演者にいらっしゃるのも新鮮ですよね。
――脚本の印象、目を引いたセリフやシーンがあればお聞かせください。
井澤:セリフを覚えるというより勉強をしている感覚でした。ガリレオ自身について学ぶことはもちろんなのですが、歴史や物理学の知識が物語に関わってくるので、本読み稽古がまるで勉強会のようです。
鮎川:天体や星が小さいころから好きだったんです。名前も太陽なので運命を感じています。
財木:印象に残ったのは「ありえないことでも、ありえない夢でも、疑問には答えが、想像には事実が、広がる余白に想像を描けば、いつか隠れた事実を見つける」という歌詞で。好奇心や探究心に満ち溢れている学者は、その考えを止めてはいけない、考えることを原動力に人の心を動かしていかなければならない、という思いが込められた言葉なんですよね。この作品の中にはそういった歌詞やセリフがとても多いんです。役者にも通じる部分があると思うからこそ、考えさせられる作品だなと。
井澤:そうだよね。この作品のセリフが数学で言うところの答えだとして、作中で僕らが表現する感情が方程式となる。きっとその答えも方程式の描き方も、4チームごとに全く違うんだろうな。
鮎川:すごい! 多分これが(この作品の)解かもしれないです!
一同:(笑)。
鮎川:四者四様の、作品の深め方がありそうです。
チャンジャ事件で気づかされたこと…?
――ガリレオが提唱した「地動説」が認められなかったのと同じように、日常生活の中でどう考えても自分の説が正しいのにもかかわらず、それを否定されたなら?
鮎川:これ、結構過去に体験したことがあります。正しいと思って説明をしているのに、僕がこんな感じの人間だからか、「いや、絶対ウソでしょ」って言われることが多いんですよ。なんか、よく悲しくなってます(笑)。でも逆の場合もあって。僕と井澤くんはこの間まで同じ舞台に出演していたんですけど、ある日の楽屋で僕が「塩辛が食べられないんだよね」って話をしたんです。
財木:ん? 塩辛?
鮎川:そう、塩辛の食感や味が苦手で。そしたら「じゃあチャンジャは食べられるの?」と聞かれたので「食べられるよ。だってチャンジャって貝でできてるんでしょ?」って答えたんですよね。そしたらそこにいたみんなが一斉に「え? タラの内蔵だよ?」って! 「いやいやいや、そんなことないでしょ〜」と調べたら…、タラの内蔵でした。
一同:(笑)。
井澤:あのときはな、本当にな。
鮎川:一体いつ刷り込まれた情報なのかわからなくて。こんなふうに自分が信じていたことが間違っているというのもよくある話で。
財木:もしそこで自分の答えが合っていた場合は?
鮎川:誇らしげに「ほら〜貝じゃん〜」「どやあ!」って(笑)。でも実際は自分が信じていることが正しいこともあるし間違っていることもある。その正誤の比率もあるんだろうけど、答えを決めつけてしまわないで、まずはお互いの考えを尊重することが大切ですよね。
――少し意地悪な質問になってしまうのですが、もし自分の考えが周りに受け入れてもらえなかったとき、どのような行動を取りますか?
井澤:若い世代の間でYouTubeやSNSが台頭したことで世の中的にも「名前が売れている」という判断方法も変わってきてるんじゃないでしょうか。ただ自分の親世代は「TVに出てるからスターだ」っていうのが念頭にあるようで。だから僕は「今はこういうことが実際にあって、それですごく人気なんだよ」って伝えたりしていますね。いただいた問に対する答えでいうと、僕としては相手に自分の考えを理解してもらえない場合は説得を試みたり、まず“伝えてみる”ことに挑戦してみます。逆にすごく良い答えが返ってきた場合は「なるほど」とすんなり納得をする場合もあります。
鮎川:井澤くんって最後まで人の話を聞いて、質問したり意見を聞くタイプだから素敵だよね。
井澤:ちょっとちょっと(笑)!
石井:(笑)。僕は「分かってくれている人がいればそれでいい」ってなってしまうんだろうな、きっと。他者とわだかまりを生むのがあまり好きじゃない質なんです。かといって過度に気を使っているとかではないのですが。下手に良い雰囲気を壊したくはないなと思うんですよね。自分が間違ったことを言っている可能性もあるので、相手の意見を聞いて「あ、そうだったんだ」となることが多いんです。だからきちんと意見を言える方ってすごく魅力的に映ります。
財木:分かります。否定から入りたくはないし、相手にも否定から入らないでもらえると嬉しい。相手の気持ちをちゃんと受け止めたい。その先に「でもね、こういう意見もあって…」というやり取りがあれば、より理解を深められると思うから。
――人生における、大発見や命をかけてでも突き通したい信念や観念がありましたらぜひお聞かせください。
石井:少し話がずれてしまうのですが、「芸能界で生きていく」という強い信念には多様な形があるんだと、役者さんとの出会いによって気づかされるんですよね。今回のカンパニーとも「この人はどういう考えを持って、今一緒にお芝居をやっているのかな」と思いながら稽古を進めて、それぞれの信念を聞けたとき、その全てが刺激になるんだろうなって。「ああ、自分ももっと考えなくちゃいけないな」って感化されるような、そういう瞬間が歳を重ねるごとに増えたんです。そして今日このタイミングでそろったこの4人での座談会にはすごく大きな意味があったなと思います。
――改めて最後にファンの皆さんへメッセージをお願いいたします。
石井:(今って)本当に何が真実なのかが分からない時代で。情報が飛び交っていて、何を信じるべきかが見えず不安になっている方も多いのではないでしょうか。みんな「こういうこと言っていいのかな?」と思っていても表に出せないんですよね。この『シデレウス』という作品に含まれる「真実は何か」というメッセージを舞台上で表現するので、観に来てくださった方に感じ取っていただければと思います。
鮎川:たった3人しか登場人物はいないのにたくさんの情報量がある作品です。僕たちも全力で稽古をしていきながら、このお話の素晴らしいところを伝える表現者として、たくさんの方に届けたいと思います。もし少しでも気になられましたら、家族やお友達とご一緒に気軽にお越しください。そして終わったあとにカフェなどで「あそこ良かったね」「あの曲、カラオケに入ればいいのにな〜」とか思っていただけたら、僕たちにとってそれ以上ないことです。劇場でお待ちしております。
井澤:この作品は僕たちにとってちょっとした試練となるだろうなと感じています。でもその先に見える景色や達成感、それぞれのキャストの見せ方やレベルアップが明確に出てくるだろうなと。国は違えど本作は時代劇なので、「こういう人が実在したんだな、こういう人生を送ってきたんだな」と、史実に沿う沿わないはあるにせよ、実在した人物の生き様を見ることができるのは面白いのではないでしょうか。本作が皆さんの心に響き、今後の人生を歩む上で何かのきっかけになってくれたらと思いながら頑張ります。どうぞよろしくお願いいたします。
財木:誰しも子供のころや物心ついたときに空を見上げて「あそこで輝いているあの星はなんだろう?」って考えたことがあると思うんです。今、僕たちはその理由を手軽に調べて、知ることのできる時代に生きています。しかし、ガリレオがいた時代は情報を得られないどころか、その時代に合った生き方をしないと異端とされていたわけで。そんな時代の中でも一つの物事に興味を持って前へと突き進むこの3人には、心を掻き立てられるような大きなパワーがあります。見に来てよかったなと感じていただける作品になると思います。よろしくお願いいたします。
取材・文:ナスエリカ/撮影:木村智軌
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