2.5次元舞台は2020年以降、新型コロナウイルスにむしばまれた。ただ、感染対策を立てながら公演を続けることで、舞台は新しい姿を見せ始めた。「2.5次元文化論 舞台・キャラクター・ファンダム」(青弓社)などの著書がある横浜国立大学の須川亜紀子教授(アニメ研究、2.5次元文化研究)に、2.5次元舞台がどう変わり、どう進んでいくのか、聞いてみた。
――劇場を開けられなかった2020年と違い、2021年はコロナがある中で、どう舞台を運営していくかという模索の1年でした。
観客との距離が近いというのが2.5次元舞台の売りで、人気でもありましたが、距離を取らざるを得ない環境になりました。これまでは、俳優が舞台の下にまで降りてきて、観客とふれあうことも少なくありませんでしたが、そうした演出は一切、なくなりました。演出方法が変わったとも言えます。
その中で、プロジェクションマッピングに代表されるように、映像を数多く使うようになりました。もともと映像技術の進化もあって、徐々に演出が変わりつつありましたが、カーテンスクリーンを使うことで、いろいろな映像を使うことが以前より簡単になりました。雨、雷、爆発などの演出一つとっても、以前と比べて、舞台上の迫力が増した印象です。
――とはいえ、ファンにとって、距離の近さが失われたのは大きいのではないでしょうか。
いままでの、「わいわいがやがや」という雰囲気が失われ、寂しさがあるのは否めません。ハイタッチができなくなり、声を出すことが禁じられ、みんなで一緒に歌うこともできなくなった。ミュージカル『テニスの王子様』(以下、テニミュ)も一緒に歌うことが魅力でしたから、感染対策で歌ってはいけなくなっているのは、ファンにとって制限ですし、コール&レスポンスの一体感は失われました。
2.5次元の舞台と言えば、会場でグッズを交換するトレーディングも一つの文化でしたが、貼り紙で禁止されている会場もあり、感染対策を考え、運営側も注意をせざるを得ません。SNSでファン同士で連絡を取り合い、ひそかにトレーディングをしているのが現実です。
――一方、新しい楽しみ方も生まれました。
これまでと比べて、ライブ、アーカイブ配信される舞台の数が増えました。これまでは、配信は初日や最終日の舞台に限られていましたが、いまでは複数の公演、しかもマルチカメラで配信されます。衣装のひだや、推しの横顔の細かなところまで見ることができる。劇場で見て、さらに配信で見直す。そんなファンもいます。演出側もファンが欲しているものをすごく意識していて、公演によって映像の撮り方を変えてみる。俳優たちの成長も見られますし、同じ脚本でも、違う味わい方ができます。また、演出家が好きになり、そこから他の2.5次元以外の作品に興味を持つ例もあるようです。
舞台『刀剣乱舞』は劇場版を展開しています。すでにDVDなどが販売されていますが、また違うカメラアングルで楽しめます。ファンを飽きさせず、一つの作品を骨の髄までしゃぶり尽くせる仕掛けと言ってもいいかもしれません。
――演じる俳優側に変化はありましたか。
コロナ以前は、2.5次元舞台は数が増えすぎている状態でした。十分な稽古を積めず、準備ができていないまま舞台に立っている状態の俳優もいたようです。ファンにとっては、成長を見るという喜びもあるのですが、十分な訓練を受けないまま、キャリアを積まざるを得ない若手は気の毒だと話す演出家さんもいました。
一方、コロナで、公演自体が中止になり、日の目を見ない舞台すらありました。人気、実績のある俳優ですら舞台に立てません。でもそのことで、演劇ができる喜びを再確認する俳優も増え、自分と向かう時間が増えたと聞いています。
また、厳しくなったとはいえ、2.5次元舞台は人気もありますし、チケットが売れます。配信もあるため、ある程度収入があり、宝塚のOGやミュージカル俳優をはじめ、力のある俳優と若手の共演など、演技の質や表現に多様な変化がみられます。
――新しいファンも増えていますか。
宝塚のファンや原作を知らないファンも増えるなど、新しい顧客層が生まれてきました。感染対策もあり、チケットの単価が上がっていることを懸念しています。もともとグッズなども大量に買うような若いファンに支えられてきた2.5次元舞台ですが、チケットの値段が上がり、コロナの影響もあり、金銭的に苦しくなっているというファンもいます。
――2022年、2.5次元舞台はどう進化するでしょうか。
2018年の「NHK紅白歌合戦」で、ミュージカル『刀剣乱舞』の刀剣男士たちが出演したことで、2.5次元舞台の知名度が全国的に上がりました。また、海外向けの英語字幕配信も始まり、日本発の2.5次元舞台がもっと世界に広まる可能性が高まっています。以前はなかなか理解してもらえなかった2.5次元舞台(つまり、ブロードウェイやウェスト・エンドとは異なる台詞劇・ミュージカル)が少しずつ理解が深まっている印象があります。
2022年も進化した映像を使った演出はよりいっそう派手なものになるでしょう。ホログラム、バーチャルリアリティーを使った演出が増えることで、これまで技術的に難しかったSF作品や、動物を使った作品が実現するかもしれません。個人的には、幼い頃の思い出の「サイボーグ009」が舞台化したら、と期待しています。
<すがわ・あきこ>
横浜国立大学教授。専門は、ポピュラー文化研究、2.5次元文化研究。推しは、鈴木拡樹。初めてインタビューをした俳優で、その真摯な姿勢と作品ごとに化ける演技力に惹かれる。
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