演出家・中屋敷法仁が手掛ける独特な表現が人気を博している舞台「文豪ストレイドッグス」。シリーズ5作目となる舞台「文豪ストレイドッグス DEAD APPLE」が4月16日(金)に初日を迎える。
2.5ジゲン!!では、中原中也役の植田圭輔、その元相棒・太宰 治役の田淵累生にインタビューを実施。作品の見どころやカンパニーの雰囲気、「文ステ」の魅力などを聞いた。
シリーズ一番の“リッチな作品”
――田淵さんは「文ステ」初出演となります。出演が決まった際の感想を教えてください。
田淵:植田さんをはじめ、ぴーちゃん(鳥越裕貴)さんとか有名な方しかいなかったので、もう緊張しかなかったですね。
植田:有名って(笑)。でも大変やったね、一番合流が遅かったもんね。
田淵:それもあったので、稽古に入るときは震えながら入りました。
植田:でも今回は過去の作品で自転車を漕いでいた人たちばっかりで、累生も自転車の後輩でもあるので。割と最初から普通に喋っていたよね。
田淵:はい、そうですね。喋っているというか、皆さんに喋っていただいているというか。仲良く……なれましたか?
植田:今すごくいい距離感だと思うよ。年上が多いもんね、累生からしたら。
田淵:そうですね。
植田:ちょうどいい“お兄さん”ばっかりなので(笑)。いい空気になっているんじゃないかと思います。
――植田さんはもともと何度も今回の原作の映画をご覧になっていたとのことですが、稽古をする中で、どんなところに見どころや魅力を感じていますか。
植田:圧倒的劇場版感があるところです! 演出が中屋敷法仁さんで、脚本が朝霧カフカ先生ということもあるんですが、昨日も稽古場で言っていたのが「すごくリッチな作品」だなと。どこもかしこも見どころです。
原作について先生が「本当だったら3時間くらいかかるものをギュッとして映画にするのも大変でした」って仰っていて。今作もまさしくそうで、見どころ満載だし、中屋敷大先生が冴えわたっておりますので、演出がすごい! すごいよね、本当に。
田淵:すごいですね。
植田:僕らも観ていてワクワクしますもん。お金払わなくていいのかなって(笑)。それぐらいすごいですよ、今回! 今までの過去シリーズの自分が出演していないのも含めてどれも素敵でしたけど、今回一番いいんじゃないのかなって思っています。リッチです、リッチ!
――演じる役の本作での注目ポイントを教えてください。
植田:具体的に言えないので難しいんですが、僕は「文ステ」初の“とある演出”で、めちゃくちゃ大事な部分を担わせていただいていますので、そこですね。
田淵:映画ではそこまで出てきていない役なんですが、「そうくるんだ」みたいなシーンとか絡みもあるので、お客さまにも楽しんでいただけるんじゃないかなと思います。ネタバレしないで言うの難しいですね(笑)。
中也と太宰、2人の関係に信憑性を
――中也と太宰の間には複雑な関係性があります。演じる際に意識していることや、役作りで大切にしているところはどんなところでしょうか。
植田:ほら、きたよ! 模範解答を求められる質問(笑)。言ってやってよ!
田淵:……あります?
植田:なんでこっちにパスするん(笑)、僕はいっぱいあるよ。僕が先に言っちゃったら、その後はしんどいかと思って。
田淵:えっと……どうぞ……。
植田:僕が先に言うの(笑)? じゃあ(言うこと)残しとく感じにしとくね。
まず、第一関門は身長差だと思うんですよ。役作りではないんですが、そこはもうすでにバッチリなので、ちゃんと突破していて。
2月末に発売されたノベライズの「STORM BRINGER」も読んで、過去の話も掘り下げて自分の中にトレースしている状態なんですけど、2人はやっぱり基本的には心のどこかで繋がっているというか。繋がっているのは嫌なんですけど、そうせざるを得ない2人なので。
それは異能力的にもそういう関係で、世界を止めるためには中也が異能力を発動しなきゃいけないけど、そうしたら死んじゃう。でも太宰がいたら異能を止められる。
そういう絶妙なバランスで原作でも描かれているので、そこの「むちゃくちゃ嫌なんだけど、お互いの能力だけ信頼している」というか「こいつがいなきゃ出せない」っていう感覚とか、2人にしか分からない時間とか空気みたいなものを、しっかり信憑性が出るようにやらなきゃなとは思っています。
あとはせっかく累生とやるので、2人にしか出せない空気感を大事にしようかなと思っていますね。
田淵:100点じゃないですか。
植田:ほら、せやろ(笑)。
田淵:信頼関係は今回もすごいですよね。そういうシーンも多々ありますし。切りたいんだけど、切っても切れない関係というのを僕も大切にしています。
――信頼関係が重要とのことですが、お二人の雰囲気はいかがですか。
植田:このまんま先輩と後輩っていう感じです(笑)。累生がすごく良い子なんですよ。本当に言葉通り素直で。
あんまり自分からガッて前に行くタイプじゃないし、(橋本)祥平みたいにアホするタイプでもないし(笑)、どっちかっていうと粛々と真面目にやっているタイプなんですけど、オーダーはすっと受け入れられるし、それを受けてすぐにトレースできる能力もあるっていう部分が見て取れるので。
今はそういういい部分とかを、稽古の中で見つけている最中ですね。いかんせん一緒にモーションを合わせることが多いので、自然と分かってくる感じがあって、なんの居心地の悪さもなくやらせてもらっていますね。
田淵:嬉しいです!
――田淵さんから見て、植田さんはどんな存在ですか?
田淵:もう尊敬しかない! 尊敬できるところしかない先輩ですよ。
植田:この状況じゃそう言わざるを得ないけども(笑)
田淵:いや本当に! 僕もともとすごく中也がかっこよくて大好きで。植田さんの演じる中也はまさに中也なので、かっこいいなって。
でも舞台上では対等に並ばなきゃいけないので、普段は先輩後輩という関係なんですけど、本番に入ってからはしっかり対等に並べるようにしたいなって思います。
――初対面の印象はいかがでしたか。
植田:初対面はついこの前だよね(笑)。印象か~。率直なことをいうと「自転車、まじでお疲れ」かな(笑)。
あとはいい空気をまとっている人だなって思いましたね。オーラが見えるわけじゃないんですけど、感覚的に最初の「おはようございます」だけで分かっちゃうところがあって。そういう意味で累生のファーストインプレッションはすごく良かったですね。
田淵:最初の植田さんの印象はもう「怖い」ですね。
一同:(笑)。
田淵:自分の中で植田さんはすごく大きい存在なので、粗相したらどうしようって。全然できてないって思われちゃったらどうしようとか、そういう意味ですごく怖かったです。
植田:いやいやいや、全然。大丈夫ですよ。このカンパニーの独特なところなんだけど、できてなくても全然追い詰めてこないじゃん。
田淵:そうなんです、だから怖くて。
植田:やしき(中屋敷法仁)さんがそういう人なんですよ。芝居の方法とか心の動きとかを、実はあんまり言わなくて。だから自分でやってくる人が初演の頃からけっこう多くて。
変な話、それで置いていかれるなら自分の責任だよ、みたいな感じなので。意外と一番厳しい現場かもしれない。
田淵:そうですね、それはすごく感じます。
植田:だから僕も気がついたことがあれば累生に言うようにしているし、みんなで「あそこはああだよな」と言い合いながら、本当にみんなで作っていっているっていう感じですね。
――新キャストの田淵さんから見た「文ステ」カンパニーならではの空気感はありますか。
田淵:やっぱりシリーズが続いている作品なので、ファミリー感はすごく感じますね。
植田:ファミリー感、エグいよね(笑)。
田淵:先日、中屋敷さんも「稽古はお花見」って仰っていたんですが、まさにそんな感じで、他のカンパニーとは違う空気感だなと思いましたね。
植田:続いていく作品って、どうしても内側を向きすぎて、身内っぽくなりすぎちゃうところがあるじゃない。
だけど「文ステ」って毎回いろんなキャラが来て、中島 敦が主役じゃなくなる回も普通にあって、本当に入れ代わり立ち代わりなのよ。だから母体としてはしっかりあるんだけど、固まりすぎないみたいなところがあるんだろうなって思います。
――「文ステ」カンパニー先輩である植田さんから田淵さんへのアドバイスは何かありますか。
植田:ないないないない、全然ないですよ! 自由な人ばっかりだし、ありのままでいてくれたらいいなって。意外とおとなしくしている人もいるし。
同じ新キャストだと(岸本)勇太とかもワーッと喋るタイプじゃないけど、すごく馴染んでいますし。みつさん(村田 充)も寡黙に過ごしつつ小さくボケていてかわいらしいですし。もううるさい要員は鳥越と祥平で十分ですので(笑)、自由に過ごしてもらえたらいいなと思います。
もう一つの「DEAD APPLE」に
――朝霧カフカ先生が脚本を手掛けるというのはシリーズ初の試みですね。
植田:なんて言ったって生みの親ですからね。そんな方が、舞台版の「DEAD APPLE」として描き下ろしてくださったものなので、ぶっちゃけ何も間違いがないし、全部正解なんです。
ここの感情の辻褄が合わないどうしよう、脚本家さんと相談してみよう、じゃあ現場ではこうしよう、みたいなくだりがたまにあるんですが、そういうのが一切ないんですよ。当たり前ですが。
整合性も通っているし、各キャラクターの最新版の状態で言葉が発せられているので、(前述の)ノベライズから感じられる感情がそのままセリフになっていたりして。先生が書かれているからこそだなと思いますし、演じる上でも僕はめちゃくちゃやりやすいです。
原作ファンの方にはもう一つの「DEAD APPLE」として楽しんでいただけるんじゃないかなと思います。でも、初見の方でも楽しめる作品だと思います。
田淵:それは僕も感じますね。
植田:それこそ累生を応援している方の中には、今回初めて「文ステ」に触れるという方も多いと思いますし。そういう方でも楽しんでいただけるんじゃないかな。
――最後にファンへのメッセージをお願いします。
田淵:今回「文ステ」初参加ということで、プレッシャーもあるんですが、積み上げられた作品の空気を壊さないよう、自分を出せたらいいなと思っているので、新しい太宰 治を皆さんに楽しんでいただけたらと思います。あと、今回すごくあっという間で。
植田:そうね。
田淵:僕も稽古で観ていて一瞬で終わっちゃうなって実感していて、何回でも観られる作品だなと思うので、ぜひ何回も楽しんでいただけたら嬉しいです。
植田:シリーズとして作品数も増えてきたんですが、毎回そうではあるんですが、みんなと話していて「今回が一番おもしろい」って心から今思えている状態です。
今回は特に、自分の敵は自分っていうところがテーマとしてあって、メッセージ性がかなり強いなと。自分の嫌いなところやトラウマをしっかり受け止めて、巣食わせて、その上でそれでも前を向いていくのかどうか、嫌いなもう一人の自分と共存していけるかどうか。今のこの厳しい情勢のつらいひとときに、心に響くような作品になっているのかなと思います。
あとは単純に視覚的にすごく面白くて熱い作品になっていますので、劇場はもちろん配信や映像でもかなり楽しめると思いますので、楽しみにしていてください!
* * *
作品について熱く語る植田と、彼の話を熱心に聞いて頷いている様子が印象的だった田淵。素顔では先輩と後輩の関係性が色濃い2人が、舞台上ではどんな“元相棒”感をみせてくれるのか。彼らの会話からは想像がつかないだけに、より一層本番が楽しみになった。
植田が「リッチ」だと語る舞台『文豪ストレイドッグス DEAD APPLE』。その真意は、ぜひ劇場や配信で確かめてみてほしい。
取材・文:双海しお
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