2020年7〜8月に上演されるミュージカル『憂国のモリアーティ』Op.2 -大英帝国の醜聞-。2019年5月に熱狂的な「モリミュ」ファンを生み出したミュージカル『憂国のモリアーティ』シリーズ待望の2作目だ。
今作から新たにマイクロフト・ホームズ役の根本正勝とアイリーン・アドラー役の大湖せしるが加わり、ストーリーは新たな局面を迎えていく。
「2.5ジゲン!!」では、シャーロック・ホームズ役の平野 良とその兄のマイクロフト・ホームズ役の根本正勝に、本作へかける意気込みを聞いた。
今回が初の“兄弟対談”となった2人。平野は熱っぽく、根本は対照的に静かな眼差しで、ミュージカル『憂国のモリアーティ』、そして演劇への想いを語ってくれた。
前編となる本記事では、初共演となった2人の運命的なエピソードや、兄弟役ならではの話を楽しんでもらいたい。
命懸けの役作りが結実 前作の世界観と今作へのプレッシャー
ーーまずはシリーズ2作目の製作が決まったお気持ちをお聞かせください。
平野 良:早い段階で2作目の製作は決まっていたんですが、原作のどこをやるのかなっていうのが気になっていましたね。『憂国のモリアーティ』にしても、原案であるコナン・ドイルの「シャーロック・ホームズ」シリーズにしても、アイリーンが出てきたりマイクロフトが出てきたりと色んな要素が詰まっているので、それはすごく楽しみでした。
特にシャーロックは、めちゃくちゃに振り回されるエピソードが多いので、また1作目とは違った一面を皆さんにお見せできるんじゃないかと思います。
ーー久しぶりに演じるシャーロックはいかがですか?
平野:1作目のときに、結構クセ強めで役を作ったので、忘れていたらどうしようかなってちょっとドキドキしていました(笑)。いざケンケンさん(鎌苅健太)のワトソンと、奏音ちゃん(七木奏音)のハドソンさんと一緒の空間でやっていたら、おのずと1作目当時の感じにふわっと戻れたので安心しましたね。「あ〜シャーロック、そうそうこんな感じ」って。
ーー自然と戻ってきたんですね。一方、根本さんは今作から参加となりますが、出演が決まった際の心境を教えてください。
根本正勝:まずオファーをもらえることが役者としては嬉しかったですね。出演が決まってから、自分なりに作品のことを調べていく中で、ミュージカル『憂国のモリアーティ』の世界観はすごく質が高くて素晴らしかった、という話を色んな方から聞きました。
2作目っていうのは、やっぱり1作目があって、それに対してお客様が「もっと観たい」と盛り上がってくださるから繋がっていくものだと思うんです。そういう意味では、2作目から出演できる嬉しさと同時に、いい意味でのプレッシャーは感じました。
ーー根本さんから「質の高さ」という言葉がありましたが、1作目の出演者として実感する部分はありますか?
平野:質の良し悪しは作り手側がどうこう言えるものではないんですが、評価としては素直に嬉しいです。僕の場合はどんな作品に対しても「これでいいや」と、例え小さな部分でも妥協を許したくない。
プリンシパルだからこう、アンサンブルだからこう、という形ではなく、どの役でもひとりの役者として役作りを追求していこうと稽古を重ねた結果なのかな、と。アンサンブルってどの作品でも出てきますけど、僕の中で面白い作品ってアンサンブルがことごとくすごい。アンサンブルは勉強の場所じゃなくて、チャレンジの場であってほしいんです。
このミュージカル『憂国のモリアーティ』という作品では、全員がそういう意識を持って、役に関係なく命を懸けて役作りをしてきたので、それが少しだけ実を結んだのが、その評価なんだと思います。ただ、2作目はそれを超えていかなきゃならないんで、もっと厳しい戦いになるんだろうなとは思っていますね。
念願の初共演、2人が演じる「丸裸」なホームズ兄弟
ーー今回は兄弟役となりますが、お互いの印象を教えてください。
平野:初めてお会いしたのは2年くらい前ですよね?
根本:そうね。
平野:ご飯の場で偶然お会いしたんですよね。お互い名前はもちろん知っていたし、お互いの周りにいる俳優同士は仲が良かったので、周りから「え!? まだ根本さんと共演してないの?」ってずっと言われていました。そんな頃に偶然お会いして「いつか共演したいです」って話してたら、まさかの兄弟役で。
根本:僕もいつか共演するだろうって思っていたのに、良くんとは意外と共演しなくて。それに、この作品が決まる前、偶然街中で(鈴木)勝吾に出会ったんですよ。そのときは他愛もない話をしただけなんですけど、その後にこの作品が決まって。
出演者を見たら2人ともいるし、しかも良くんとは初共演が叶ったと思ったら兄弟役で。縁っていうのはこういうことを言うんだなと思いましたね。
ーー確かに、お2人が初共演というのは意外ですね。
根本:共通の友人は異常にいるんですけどね(笑)。
平野:裏話をすると、1作目のとき「マイクロフト、誰がやるの?」ってみんなで話してたんです。
根本:そうなの?
平野:「誰々じゃない?」「いや、このラインじゃない?」ってずっと話してて、いざ根本さんですってなったときに、みんなで「あ~~」って。
根本:(笑)
平野:「分かるわ〜」ってみんな納得でした。
ーーそんなマイクロフトとのシーン、どのあたりが見どころですか?
平野:シャーロックが唯一勝てない男ですからね。でも稽古終わりに一緒に帰ったりするじゃないですか。そのときに、もう根本さんマイクロフトっぽいんですよ。
根本:いや、そんなことあるか(笑)。
平野:この落ち着いたトーンで淡々としゃべって、それに地震とかバッタとか……何を聞いても知ってるじゃないですか!
根本:何でもってわけじゃないけど……(苦笑)。
平野:けっこうマイクロフトのまんまなんですよ。
根本:マイクロフト役として「嫌だよ」って言うわけにはいかないけど、なんか嫌だな(笑)。でも、2人のシーンはそう長くないけど、僕もすごく楽しみにしているんですよ。これまで絡んだことがない分、お芝居の中でどう膨らませていこうかなって。
僕ら兄弟は全く違うタイプなんですけど、「やっぱり兄弟だな」って感じる部分が原作を読んでいてもあったので、そういうところを作っていけたらいいですね。
平野:ある意味、兄弟のシーンでは丸裸な2人になるじゃないですか。兄弟や家族って、他の人と接するときとは態度が変わるものだから、クレバーで理路整然としたかのように見えたシャーロックが、兄ちゃんの前ではこんなにも情けないんだっていう一面があって。
マイクロフトも、あれだけの地位にいてしっかりしている人なのに、弟の前では兄ちゃんになる。あの瞬間がいいですよね。僕たちも楽しみだし、お客様も2人にこんな表情があるんだっていうのを楽しめると思います。
ーー1作目ともまた違うシャーロックが観られるんですね。
平野:もう、全然違う。やっぱり兄ちゃんの前だと“弟”になるんですよね。
根本:僕としてはそこのところを上手く引き出してみたいですね。
ホームズ兄弟の「見えない絆」がもたらす人間味と面白さ
ーー兄弟といえばモリアーティ兄弟もいますが、ホームズ兄弟から見てモリアーティ兄弟はどんな存在ですか?
平野:どちらも絆は絆なんです。でも、モリアーティ兄弟の方はストレートな絆だと思っていて、こっちの絆は見えない絆なのかな。兄ちゃんもけっこうシャーロックのことを考えてくれているんだけど、「兄の心、弟知らず」みたいな。でも、弟としてどこか尊敬しているし、頼りにもしている。
根本:お互い言葉では言ってない感じがいいよね。
平野:そうなんですよ。モリアーティチームは、ちゃんと言葉にして絆を表現するんですよ。こっちはまともに言葉を交わさないのに、絆がある。そういう違いがありますね。
根本:確かに向こうはちゃんと伝えてるもんな……。
平野:あっちは特に末っ子のルイス(演:山本一慶)が「兄さん、兄さん」ってめちゃくちゃ懐いているじゃないですか。だから、ルイスが「兄さん」って何回言うのかは見どころのひとつです(笑)。びっくりするぐらい連呼しますからね。ぜひ数えてみてください(笑)。
根本:そういう分かりやすく伝える関係の方が、もしかしたら今の時代っぽいのかな。でも、ここ2人(ホームズ兄弟)の関係はちょっと歪んだ感じも入っていて、僕はそういうところが好きなんですけどね。
平野:いいですよね、その感じ。絶対兄貴のこと好きなんて言わない、って感じですもんね。でもそっちの方が一般的なのかな。僕は姉しかいないから分からないんですけど。
根本:僕は実際に兄がいますけど、普段は連絡も取らないですね。でもふとしたときに連絡が来ると、ちょっと気にかけてくれていたのかなって嬉しくなります。
平野:根本さんは「兄ちゃん、兄ちゃん」って感じでした?
根本:子供の頃はめちゃくちゃ仲良かったかなあ。大人になって離れて暮らしているとさすがに「兄ちゃん、兄ちゃん」にはならないけど、なにかの節目で会ったときとかに、兄弟っていいなあってふと思いますね。そういうのもあって、兄弟役とか家族もの演じるのってすごく好きなんですよね。
ーーマイクロフトには兄としての顔以外に、長官としての顔もありますが、演じる上で意識している部分はありますか?
根本:国の一端を担う職種っていうのはリアルには想像できないですけど、役者の楽しみってそこにあるんですよね。男としてどれほどの重圧を背負いながら日常を生きているんだろう、決断を下しているんだろうって。
アルバート(演:久保田秀敏)とはお互いに利用価値を感じながら腹を探り合って、次元の高い話をしている。それと、弟の前に出たときの違いがね、すごく面白い人ですね。表面上は崩さないし、セリフとしても言わないんだけど、弟のところに行くと「この人も人間なんだな」って部分が垣間見える。スマートに見えて、中がグチャグチャに歪んでいそうなところにすごく惹かれていますね。
この人の余裕は、どういう経験をしてきたら出るんだろう。手を組んで立っているだけでにじみ出てくる奥行きみたいなものを、マイクロフトのシーンでは見せられたらいいなと思います。
兄弟役だからこその空気感に期待大
兄弟対談の前編はここまで。マイクロフトというシャーロック・ホームズを語る上で欠かせない存在が登場することで、どんな変化が生まれるのか。上演に向けて期待が膨らんだ読者も多いのではないだろうか。
後編では、ミュージカルならではの見どころや、この作品をミュージカルとして上演する意味、さらに、ステイホーム期間を経て募った演劇や芝居への想いをボリュームたっぷりに語ってもらった。ぜひこちらも楽しみにしてもらいたい。
撮影:ケイヒカル
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