連載コラム「吉谷晃太朗のマチソワタイム」vol.52
演出家・吉谷晃太朗さんが若手俳優をランダムに紹介していく連載コラム。第52弾は手島章斗さんの魅力に迫ります。
ミュージカル「マギ」-迷宮組曲-で初舞台を迎え、吉谷さんと出会った手島さん。圧倒的な歌唱力を持ちつつも、さらなる伸びしろが見えるところに魅力が宿ると、吉谷さんは言います。
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手島章斗について
出会ったのはミュージカル「マギ」の稽古がスタートする前。
まだ舞台経験がないと言うことで、ミュージカルに対しては未知なパフォーマーだったが、とにかく歌の能力が抜群に秀でていた。「歌」に特化したミュージカルにすると言う目標を掲げた「マギ」において、貴重な戦力であるということを関係者に歌声一発でまざまざと見せつけた。手島章斗だ。
初舞台ということで、稽古では居残りで一緒に練習した。
演技は、パフォーマンスであってパフォーマンスではない。「本物の感情を作り上げること」と「人に見せること」の理屈は根本的に違う。でも、表現者はそれを同時にやっていかないといけない。
つまり卓越した能力を見せるとともに、誰もが共感できる当たり前の心を作り上げる必要があるのである。そこへの適合の仕方に苦労していたし、今回も事前の稽古で同じ課題を追求していった。
「わかんねー」「むずー」とか言いながら、それでも徐々に課題をクリアしていく。
彼は今作の役柄とは違って、非常に謙虚で周りを決して傷つけない優しさを持つ男である。
その謙虚さや優しさは、時に稽古のぶつかり合いの際には邪魔になることがあるが、堅実にゆっくりと課題を越えて進んでいくその姿勢は本番での自信へとつながり、その結果、誰をも圧倒するパフォーマンスを見せる。
優しい心の持ち主が、あれほど攻撃力のある歌声を出せるとは、彼の体と精神はどういう構造なんだと知りたくなる。歌のパフォーマンス能力に追随するように演技に必要な本物の心も強まって、強固な敵キャラクターを見事に作り上げた。
私は優れた表現に対して「突き抜けている」という表現を使う。
稽古を経て溜め続けた気持ちを一気に爆発させた感じというか、そういうものが見える瞬間がある。今回の章斗ではそれを多く感じた。
彼の歌声や魂が突き抜けた時の気持ち良さ、清々しさは誰にも負けない。あんなエネルギーを客席に飛ばせるパフォーマーはそうそういない。
「マギ」の彼の役のセリフを引用すると「そうそういてたまるかよ」だ。
ミュージカル「マギ」は能力に秀でた人たちの集まりだったため、そんな卓越した能力が、さも普通のできごとのように通り過ぎてしまう錯覚を起こすが、本当にすばらしい。彼には伸び代しかないし、完成されていない魅力も感じる。
稽古終わりに一緒に帰ったことがある。
パフォーマンスの悩みやこれからの活動について話した。誰よりも秀でた武器を活かせる場所はたくさんあって、その場所に赴(おもむ)けば、結果は必ずついてくる。
仮にもしそんな場所がなければ(あると思うが)、路上でも歌ってくれ。
君の天性の歌声は空に突き抜ける。清々しいほどのエネルギーを持って、人々に突き刺さることだろう。
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