連載コラム「吉谷晃太朗のマチソワタイム」vol.46
演出家・吉谷晃太朗さんが若手俳優をランダムに紹介していく連載コラム。第46弾は椎名鯛造さんの魅力に迫ります。
舞台「文豪とアルケミスト」シリーズなどに出演してきた椎名さん。彼のパフォーマンス能力の高さはバランス感覚にある、と吉谷さんは言います。
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椎名鯛造について
彼の最大の魅力は心と声と体の三位一体なバランス感覚にあると見ている。吐き出される言葉の強さと想いの深さ、フィジカルパフォーマンスが見事なほどにマッチングしている。これまで一緒に仕事をしてきた俳優の中でも随一と言っていいだろう。
どんな役柄も演じることができる彼だが『感情豊かに心の葛藤を訴え、動くことのできる役』をお願いしたいと思う時、真っ先に浮かぶ俳優は椎名鯛造なのである。
彼のパフォーマンス能力の秘密について分析してみよう。
まず、声と体において筋力の使い方がとてもスムーズだ。
声を出すことも筋力を使う。声帯をコントロールする筋肉だ。そして、声帯で響いた声を前に飛ばすには、息の力が必要である。息を吸って吐き出すことも筋肉。それらの筋肉を使って台詞を前に飛ばすのであるが、鯛造は体の中の筋肉の使い方がわかっているので、例えば思い切り体を動かしながらでも、声を前にしっかり飛ばすことができ、体の動きが声の勢いを増すこともある。
アクロバティックな動きは、吐き出す台詞にも波及しているのである。
身体の使い方は言うまでもなくとても巧みだ。アクションの素晴らしさというのは、もちろん動きの切れ味もあるが、自分を、そして相手役を怪我させない距離感の取り方や体の使い方が上手かどうかにかかっている。
心については、稽古場での佇まいでも感じることができる。真面目な彼は自分のパフォーマンスへの責任感が強く、腑に落ちないところは意見を出す。イメージをし、慎重に役を積み立てていっている証拠だ。演出家のオーダーに対しては、必ずそのようにパフォーマンスを変化させてくれる。彼の俊敏さは心にも波及しているのだ。
多くの役柄とは違い、少し照れ屋な彼は、「みんなを楽しく元気に盛り立てる!」というより、短時間でも思考して誰も気づかなかったことをポンっと言ってくれるお兄さん的立ち位置である。
前に出過ぎないそういった人間関係の距離感の取り方も彼のバランス感覚。なるほど。すべてがつながってるように見える。
台詞の勢いだけが強くても、動きに切れ味やダイナミックさがなければ、『感情豊かに動けるキャラクター』は描けないし、逆に運動能力が高くても、台詞の力にいまひとつパワーが備わってなければ、やはり観客の心を打つキャラクターにはなれない。
そして人を演じる上で、人が人たらしめる最も重要な『心』が備わる必要は言わずもがなである。
心、声、体、それらの要素が全てバランス良く、それぞれの要素がそれぞれの要素を高め合っている。それが椎名鯛造である。
マチソワとは――昼公演という意味の「マチネ」と夜公演を意味する「ソワレ」を組み合わせた言葉。マチソワ間(かん)はマチネとソワレの間の休憩のこと。
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