連載コラム「吉谷晃太朗のマチソワタイム」vol.45
演出家・吉谷晃太朗さんが若手俳優をランダムに紹介していく連載コラム。第45弾は鷲尾修斗さんの魅力に迫ります。
ミュージカル「忍たま乱太郎」シリーズや2.5次元ダンスライブ「ツキウタ。」ステージシリーズなどに出演してきた鷲尾さん。彼が持つ「和み」は、安心するとともに良い稽古場作りの大きな力になってくれる、と吉谷さんは言います。
* * *
鷲尾修斗について
久々の再会に心踊る俳優がいる。パフォーマンス能力の高さはもちろんのこと、稽古場での佇まいがとても気持ちよく、どこか家族のような雰囲気を感じさせてくれる俳優。高身長なのに誰よりも腰が低く、現場を和ませてくれる。
鷲尾くんがいたら安心して現場に来れるし、面倒なことをオーダーする時もこちらが一切気を使うことはない。昔、冗談で言ったオーダーをまともに受けてくれ、全力でやってくれようとしたことがあった。リーダー的に現場を引っ張ろうとする訳ではなくても、真面目な姿で現場を自然と引っ張ってくれる。
創作にあたって我々の目標は2つあって、1つ目はもちろんお客さまに楽しんでもらうこと。2つ目は良いクリエーションの現場を作り上げることだ。稽古場という工房は、その時々でキャストもスタッフも入れ替わる。
作品は心血を注ぐが命を吹き込めば、また別の作品へとそれぞれ進んで行く。大切なクリエイターたちが継続して物作りが出来る環境作りもまた、演出家の仕事なのではないかと考えている。
つまり物作りを行う工房を作っていくこともまた創作活動の一環なのである。
そういう意味で鷲尾くんは、現場に「和み」を持って来てくれて、いい稽古場作りの目標に大きな力になってくれる。まるで、柔らかくほのかな香りのする温かい緑茶のような存在だ。
そんな「和」の心を感じる彼が舞台「文豪とアルケミスト」(文劇)では、エドガー・アラン・ポーという外国人を演じるのが実に奥ゆかしくて面白い。彼の響き通る声は、楽器で言うと管楽器のようで、和楽器のそれとは違う印象だ。突き抜ける声を持っている。だからこそ、普段の柔和なイメージからは違った勢いを持って、少し横柄で強引な役だとしても、嫌味すぎることはない。
ミュージカル『Code:Realize』では、巨大なものが出現したり大冒険したりと演出的に表現が大変な作品であったが、鷲尾くんがいてくれたおかげで乗り切れた気がする。あの時、彼の演じたインピー・バービケーンは私の推しキャラとなった。
今、「文劇」のアクション稽古中だ。鷲尾くんのダイナミックでキレのあるアクションが目の前で繰り広げられ、とてもエキサイティングなシーンが出来上がっている。非情な武器捌きで敵を倒していく姿が印象的だ。
それでもアクション稽古の時に、みんなにきっかけが伝わりやすいようにセリフを立てていってくれたり、早めにスタンバイをしてくれたりする。そういった気遣いは彼のお客さまへの気遣いにもつながっていて、とても明瞭で伝わりやすいアクションや演技をしてくれる。
鷲尾修斗は「文劇」に引っかけて言えば、何度も稽古場に転生させたい「俳優」なのだ。
マチソワとは――昼公演という意味の「マチネ」と夜公演を意味する「ソワレ」を組み合わせた言葉。マチソワ間(かん)はマチネとソワレの間の休憩のこと。
広告
広告