私とミュージカル「テニスの王子様」(通称テニミュ)との出会いは、1通のメールだった。学生時代の友人からの「テニミュ行かない?」という突然の誘い。
公演日は……まさかの明後日だ。
私はそれまでほとんど舞台作品を見たことがなかった。それに、原作の漫画「テニスの王子様」自体も読んだことはあったが、のめり込むほどではなかった。
それでも、周りの友人にテニミュの熱狂的なファンが多かったこともあり気になっていた作品だった。
予定もちょうど空いていたので友人の誘いにのり、初めてテニミュを見に行った。
ミュージカル「テニスの王子様」とは
私が見に行ったのは、2014年7月から9月にかけて上演された「ミュージカル『テニスの王子様』全国大会 青学vs立海公演」だった。
原作のクライマックスに当たる部分で、テニスの王子様2ndシーズン最後の本公演である。
「テニスの王子様」は、主人公越前リョーマが、彼の所属する青春学園テニス部(青学テニス部)と共に全国大会優勝を目指して、テニスの試合を戦っていく物語だ。青学テニス部はもちろんのこと、対戦校のライバルたちも魅力的で今でもファンが多い。
ミュージカル「テニスの王子様」は2003年から上演が始まり、2010年に上演された「The Final Match 立海 Second feat. The Rivals」で原作のラストまで描かれ、一旦幕が降ろされた。
しかしながら、テニミュを愛するファンは多く、2011年から2ndシーズンと称して再び上演がスタートした。その2ndシーズンのクライマックスに、テニミュを何も知らない私は飛び込んだ。
衝撃と感激を感じた初テニミュ
私が見に行った東京凱旋公演はTOKYO DOME CITY HALLで行われた。
まず、私は観客の多さと熱気に圧倒された。さらに、この時の上演時間は3時間40分というかなりの長丁場。ちょっとした興味だけで見に来た自分は場違いじゃないか、本当に楽しめるだろうかと不安な気持ちも湧き上がってきた。
しかし、舞台が始まるとそうした不安はどこかに行ってしまう。
ボールの跳ねる音が響くたびに、舞台上はテニスコートに、私は舞台ではなくテニスの試合を見にきた観客になった。1幕が終わった後、休憩に入ると、私は隣に座っている友人に「すごい!」という言葉を連呼した。
私にとって衝撃的だったのは、音楽に合わせて生き生きと踊っているのが漫画で見たままのキャラクターだったことだ。歌もダンスも決め台詞も、全てがキャラクターそのもので、私はただただ圧倒された。
そんな衝撃を受け続けた長い公演の最後には、アンコール曲があった。テニミュは毎公演アンコールの曲が用意されており、キャストがステージ上だけでなく、客席通路まで降りてパフォーマンスをする。
舞台という遠く感じられる場所で生きていた彼らが、手を伸ばせば届きそうな距離で笑っているということに私は強く感動した。こんなにキラキラとテニスで青春している彼らと私は同じ場所で生きている。それが、生きる活力に繋がったと言っても過言ではない。
テニミュが人を惹きつける理由
テニミュの何が私たちを惹きつけるのだろうか。そう考えた時に真っ先に浮かぶのはキラキラとした舞台上のキャラクターたちの姿だ。
テニミュの持つ魅力の一つに生き生きとしたキャラクター描写がある。
漫画にはカメラワークがあり、コマの外側を見ることはできない。だから、たとえばテニスの試合中に漫画で描かれるのはほとんどが試合をしているキャラクターで、ベンチから試合の様子を伺うキャラクターが描かれることは少ない。
しかし、舞台は漫画と違う。舞台上にいるすべてのキャラクターを私たちはいつでも見ることができる。
だからこそ、試合中に仲間がピンチに陥った様子を心配そうに見守るチームメイトの姿や、目の前のライバルを見つめる視線といった、漫画では描かれなかった部分まで感じることができる。このことによって、キャラクターはより一層生き生きとした姿を見せてくれるように感じた。
例えば、「ミュージカル『テニスの王子様』3rdシーズン 青学VS氷帝」公演では、青学の手塚国光と氷帝の跡部景吾の一戦がある。
タイブレークまでもつれ込んだ試合は対戦する手塚と跡部はもちろん、両校のベンチの様子も合間って、緊迫感やキャラクター同士の関係性をも観客に訴えかけてきた。
「テニスの王子様」のキャラクターはリアルな中学生像を描いた作品ではないと思う。夢の詰まったスーパー中学生たちばかりだ。だからこそ、彼らが生きている世界は現実と地続きに感じることは難しくもある。
けれども、このミュージカルを見ながら「このキャラクターはこんな表情をするんだ」と驚いたり、「きっとこのシーンならこういうことをすると思った」と納得したり、私たちは「テニスの王子様」という世界のキャラクターが当たり前のようにそこに生きていることを感じる。
これこそがテニミュが人を惹きつけてやまない理由だと思う。
圧倒的な青春の追体験
生き生きとしたキャラクター描写は観客の心を震わせる。勝てば一緒に喜ぶし、負ければ悔しい。
それはまるで、忘れてしまった青春の1ページを彼らと一緒に体験している気持ちだ。
私が初めてテニミュを見たのは社会人になって1年目。何かに夢中になったり、熱くなったりすることも忘れてあっという間に時間だけが過ぎていくと感じていたことだったから、余計にテニミュの舞台が輝いて見えた。
だから、毎日がなんとなくつまらないと感じている人がいたら、私は「テニミュ行こうよ!」と誘いたい。きっと夢中になって、毎日が変わるはずだからだ。
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