いくつ作品を観ても、何年経っても、また観たいと思ってしまう忘れられない作品がある。あなたにもきっとあるだろう。
筆者がいまから紹介する作品はあなたの思い出の作品とは違うかもしれないが、大好きでたまらない気持ちを共有できたら嬉しい。
業界初!? 元祖舞台×ライブ2部構成舞台
1部でストーリーをやって、2部でライブをやる。いまや珍しくないこの構成。筆者が記憶するなかでは初めてこの形で上演された舞台であり、筆者が初めて舞台でライブを味わった作品がある。
それが舞台『少年ハリウッド』だ。
『少ハリ』と略されるこの作品は、2011年に初演が上演され2012年に再演が上演された。
原作は樋口いくよによる小説で、2014年以降にアニメ化がされたりリアルアイドルプロジェクトが動いたりしていたので作品名を知っている人も多いだろう。
舞台の『少ハリ』はアニメともまた違ったストーリー展開だった。主演は現在も2.5次元舞台で活躍し続けているKIMERU。
KIMERU演じる32歳のサラリーマンがひょんなことから17歳として鳴かず飛ばずのアイドルグループに加入し、年齢を偽ったままゴッドこと柊剛人として活動をすることになる。
「夢とキラキラさえあれば、きっと生きていける」というのがこの作品のキャッチコピー。
ゴッドは憧れていたアイドルに、年齢を10以上サバを読んでなった。そしてリアル10代のメンバーたちと奮闘するが、夢とキラキラじゃどうにもならないようなトラブルが次々と起きてしまう。
アイドルグループ・少年ハリウッドのメンバーを演じたのは、シーマこと早水海馬役の安川純平、ランこと風原乱役の加藤真央、コウこと大咲香役の内海大輔、トミーこと富井実役の赤澤燈、ダイチこと広澤大地役の土井一海(なんとこれが舞台デビュー作!)、リュウこと伊達竜之介役の玉城裕規。
年齢詐称がバレたり、炎上したり、解散の危機に何度も直面しながらも、キラキラした夢のステージを目指して少しずつ団結していくストーリーはまさに王道。テンポのいい会話劇を中心に進んでいく。
紆余曲折の果てにたどり着く2部
メンバーの結束が固まり、一致団結してファンへのお披露目を目指す少ハリ。
そしてついに迎えた少年ハリウッド1st Live「7th color 〜夢とキラキラをキミに〜」、というていで2部のライブ公演につながっていく。
“オレンジ”と呼ばれる少年ハリウッドのファンは、応援グッズOKの2部では観客ではなく1stライブを見守るオレンジという役割を与えられた。
ライブ前にマネージャーであるテッシーこと勅使河原恭一(新田将司)が前座として登場し、振付のレクチャーをしてくれる。初日、戸惑ったことを覚えている。舞台だけどそこまでライブを楽しんじゃっていいの? と。
そのあと待っていたのは、キャッチコピーにある通り、ただただ夢とキラキラが詰まった時間だった。
いまのようにカラーチェンジできるペンライトは当時ない。ボキボキ折るタイプのサイリウムを振って、必死にオレンジをもいだ(観ていないとなんのことだか分からないと思うが、「オレンジ!」とコールを入れながらオレンジをもぐような振付があったのだ)。
この舞台のために初演では「最強最高オレンジガール」」「君が!ライバル」「ハリウッド祭りJAPAN」「あたらしい朝」「ビューティフルTRIP2011」という5曲が用意されていた。
2部のライブパートで舞台オリジナル楽曲を披露したり、全員曲やデュエット曲があったりと、まさに近年のライブパートありの2.5次元舞台の先駆けの作品といえるだろう。
ただ今と違って折るタイプのサイリウムが公演ごとにどんどん溜まっていって、公演期間中に部屋が光り終わったサイリウムであふれた。それはそれでいい思い出だが、思い出すと時代を感じてつい笑ってしまう。
次元を飛び出して与えてくれた夢
思い出補正で美化されている部分もおおいにあるだろう。
だが、舞台『少年ハリウッド』で初めて味わった芝居とライブの2部構成という形と、ストーリーからライブへとつながっていく流れが筆者は大好きだった。
ライブパートで少ハリのメンバーや他のオレンジたちと一体になるような感覚は新鮮だった。
ライブだけでいえば、当時すでに「ミュージカル『テニスの王子様』」のDREAM LIVEが開催されていたので、サイリウムを振って応援すること自体は初めてではなかった。
そういった本当のライブ公演とはまた違っていて、舞台を観劇しに行って芝居もライブも楽しめるというのが当時の私には衝撃的だったのだ。
しかも少年ハリウッドは公演が終わってからも外部のイベントなどに少年ハリウッドとして出演するという展開までついてきた。
筆者もいくつかのイベントに顔を出してはオレンジをもいでいたが、この次元を飛び出してもはや何次元の存在だか分からないようなところも最高に滾ったのだ。
リアルアイドルのようでいて、だけど演じている役者がいて。架空というわけではなくそこに“存在”している。
その曖昧さが、2.5次元という次元の狭間に生まれたジャンルを体現しているようでワクワクしていた。
最近だと「ミュージカル『刀剣乱舞』」の刀剣男士たちが紅白に出陣している。それの小規模版といった感じの活動をしていた、とイメージしてもらえば分かりやすいかもしれない。
初演の翌年に再演も上演されたが、気づけば舞台少ハリの話題はいつしか消えてなくなっていた。
いまや当時発売されたDVDを観る以外にこの作品に触れる術はない。だが筆者は飽きることなく初演から8年が経ってもなお、定期的にDVDを再生しては前を向くための力をもらっている。
できればいつかまた彼らに会いたい。叶うことは大人の事情も込みで難しいだろう。分かっていても「会いたい!」と思わせてくれる、それだけの衝撃を劇場で与えてくれた作品なのだ。
このまま忘れられてしまうのは寂しい……という思いもあって舞台『少年ハリウッド』を記憶に残る思い出の作品として取り上げることにした。
1人でも多くの人の記憶にこの作品が生き続けてくれたら、ただのいちオレンジとしてこれほど嬉しいことはない。
続々と上演される2.5次元作品。きっと誰しもいつかは忘れられない作品に出会えるだろう。
劇場で観られる回数は決まっていて、上演が終わってしまえば同じ体験は二度とできない。それでも数年経ってもふとしたときに観たくなる作品があるというのは幸せなことだと思う。
もしそんな作品に出会ったら、いつまでもその作品を大切にしてほしいと思う。
広告
広告