連載コラム「吉谷晃太朗のマチソワタイム」vol.39
演出家・吉谷晃太朗さんが若手俳優をランダムに紹介していく連載コラム。第39弾は猪野広樹さんの魅力に迫ります。
舞台「戦国無双」~四国遠征の章~のほか、2022年6月上演予定のミュージカル「マギ」-迷宮組曲-に出演する猪野さん。彼を形容する言葉は多くあるが、一言で“役者とはかくあるべき”を体現していると吉谷さんは言います。
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猪野広樹について
今から6年前、舞台「戦国無双」~四国遠征の章~の時、荒牧慶彦くん演じる小早川隆景の父親の毛利元就という役を演じてもらうことになった。
当時23歳の彼にとってなかなかのハードルの高い役柄に当初私は心配していたが、その年齢的なハンディキャップを感じさせることない見事な仕上がりになっていた。アクションの切れ味が凄まじく、その運動能力の高さをアドバンテージにして演じることへの姿勢に余裕を持たせる。それが役柄の年齢に自身を引き上げることに一役買っているように思われた。
恐るべき若手俳優、それが猪野くんの印象だった。
課せられた自分の役割を見つめパフォーマンスへと昇華させていく。若いのにどうも中堅俳優のような存在感が印象的だった。次に出会った時にフレッシュさがなくならないといいなと思っていた。
その心配もまた、杞憂に終わる。
ミュージカル「マギ」の取材で久しぶりに会った彼は、まだまだフレッシュな若手俳優のようにも思えたし経験豊かな中堅俳優とも思えた。
「アクションの切れ味が半端ない役者」
「柔和な表情の中に光る鋭い視線」
「笑顔で周りを明るくする好青年」
ーーと、猪野くんを形容する言葉は数多くあるように思えるけど、話を聞いていて、シンプルに演じることが大好きで、自分の中に巻き起こるメッセージを出来るだけ多くの人に伝えたいと思いながら、素直に劇的世界に没入できる役者なのかもしれないと思った。
内側の沸々と燃える情熱も、クールな装いの殻を破って滲み出ている。役者の性質としてそれは本当に面白い。その性質が演技に奥深さを生んでいく。自身の中にあるストレスも夢や希望も全部表情となって醸し出す感じ。
ザ・役者という感じは触れていてゾクゾクする。
2年前くらいにも一度だけどこかの現場で偶然出会った彼は肉体的に一段と大きく見えた。運動量の多い舞台の出演を控えていた彼は体を鍛え上げていたのだろう。
先日会った彼の姿はそういった印象ではなく、またフラットな存在へと戻っていた。
それでも、撮影時の表情のスイッチはやはり彼は演技派であると証明してくれるし、その撮影風景を見ただけで彼の成長を感じることが出来た。
猪野くんと一緒にやりたいと言う仲間がたくさんいる。ものすごく分かる気がした。仲間でありながら学べる先輩のような存在なのだろう。
今度のミュージカル「マギ」ではアリババという少年を演じることになる。取材にて、彼は少年になれるかどうかの心配をしていたが、私は全然心配していない。彼には年齢のギャップを埋めるセンスとこだわり、そして経験が備わっているからだ。
役者とはかくある人間だ、そうはっきりと体現してくれる、それが猪野広樹なのだ。
マチソワとは――昼公演という意味の「マチネ」と夜公演を意味する「ソワレ」を組み合わせた言葉。マチソワ間(かん)はマチネとソワレの間の休憩のこと。
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