コラム

樋口裕太、物語全体を“ペイント”する生粋のパフォーマー【演出家・吉谷晃太朗 連載コラム】

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連載コラム「吉谷晃太朗のマチソワタイム」vol.37

演出家・吉谷晃太朗さんが若手俳優をランダムに紹介していく連載コラム。第37弾は樋口裕太さんの魅力に迫ります。

舞台「龍馬がいっぱい」、ミュージカル「スタミュ」-3rdシーズン-、ミュージカル「少女革命ウテナ ~深く綻ぶ黒薔薇の~」、ミュージカル「ヘタリア~The world is wonderful~」などに出演してきた樋口さん。歌、ダンス、芝居…それぞれが際立ったパフォーマンスでステージを彩り、作品のクオリティを上げてくれると吉谷さんは評します。

* * *

樋口裕太について


そういえば彼とは歌とダンスの溢れる世界でしかほとんど出会っていない。若い頃からパフォーマンスの世界で生きてきた彼の素養は、それ程華やかなステージの力になってくれているという証拠だ。

生粋のパフォーマーとして生きてきた彼のパフォーマンスは、お芝居の延長線上のそれではなく、歌、ダンス、芝居とそれぞれ粒だった才能を持ち合わせている。表現の色合いがパッキリしているというか、見ていて心地いい程、明確に提示してくれる。

それは観客にとっても大きな魅力で、どんな表現をしているかを大きな劇場のどの席から見ても理解できる。

お芝居は本来、パステルカラーのようなどこか淡い色合いで成り立つものが多いのだが、樋口くんのパフォーマンスはよりクリアな色合いでステージを彩ることが出来る。歌もダンスも芝居も輪郭がはっきりしているのだ。このように表現することは実はなかなか難しいことである。

ファッションに例えても、淡い色はコーディネートしやすいがビビッドな色は着こなしも難しいだろう。樋口くんの場合は、原色やビビットな色合いの表現で勝負出来る稀有な存在なのだ。

かと言って空間に染まらない訳ではない。樋口くんははっきりとした顔立ちのハンサムだけど、どこか柔らかな印象で空間に染まっている。

コラムを書かせて頂いて改めて感じる不思議な魅力の持ち主である。

そしてどんなパフォーマンスも苦手意識がないことが素晴らしい。堂々とした姿で物語における役割の芯もきっちり通してくる。

ミュージカル「ヘタリア」では何度かコメントさせて頂いたが、新キャラクターとして彼のパフォーマンス能力が全体の演出を新たに方向づけた。こんなことはあまりないことである。もちろん、それぞれの俳優の得意なもので勝負してもらいたいと思うのは普通であるが、全体を影響させるほどのキャストはそうはいない。樋口くんの加入により、作品のクオリティが上がったことは間違いなく、私としても大変助かったポイントである。

そして稽古では常に自分の中での葛藤を繰り返して、いい意味で苦しんでくれるし、疑問に思ったことはよく聞いてくれる。

でもずっと悶々と悩み続けると言うよりも、自身の中で色々な答えを出しながら追求していくタイプである。

本当にパフォーマンスが好きなんだなと思う。

そんな人にとって努力は通常運転であり、苦悩のうちには入らないのだろう。

素養と努力により花開かせる表現で物語全体をペイントできる。

樋口裕太はそんなパフォーマーである。


マチソワとは――昼公演という意味の「マチネ」と夜公演を意味する「ソワレ」を組み合わせた言葉。マチソワ間(かん)はマチネとソワレの間の休憩のこと。

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WRITER

吉谷 晃太朗
								吉谷 晃太朗
							

演出家・脚本家
大阪府出身。同志社大学文学部卒業。高校在学中より劇団ひまわり大阪俳優養成所に入所。その後大阪シナリオスクール、伊丹想流私塾を卒業し、男性演劇ユニット「Axle(アクサル)」に脚本家、演出家、俳優として参加。人気漫画の舞台化で人気を博す。ミュージカルやショー、アクション物、新喜劇など、幅広いジャンルで活動中。

Twitter:https://twitter.com/koutaroyositani

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