連載コラム「吉谷晃太朗のマチソワタイム」vol.36
演出家・吉谷晃太朗さんが若手俳優をランダムに紹介していく連載コラム。第36弾は高本学さんの魅力に迫ります。
ミュージカル「スタミュ」シリーズ、ミュージカル「ヘタリア」シリーズなどに出演してきた高本さん。愛嬌のある唯一無二の雰囲気で周囲から愛され、また相手を元気づけると吉谷さんは言います。
* * *
高本学について
かつて、オーディションなのに彼への向き合いに熱が入って40分も演技指導をさせてもらったことがある。つまり合否が出る前のことである。私自身、後にも先にもそんなことはない。
まだまだ新人だった彼は、どこかそういった相手側の情熱を引き出す特徴を持っているのかもしれないと思えた。結果、彼はそのオーディションに見事合格し、ご一緒させて頂くことになったわけであるが、現場に入ってから気づいたのは、彼は凄まじい程の愛されキャラであったということだ。
先輩からも好かれ、よく交流しているところを見かける。そこでアドバイスをもらったり、練習に付き合ってもらったりしている。
彼の演じるキャラクターはスタイルが良く華やかさを持つキャラクターが多いわけであるが、そこに高本くん独自の愛嬌という要素がブレンドされる。
身長180センチの恵まれたスタイルであるが腰が低く、威圧感を感じることはない。よく笑い、その笑みで相手側も思わず笑ってしまう。
高本くんを形容しようとする時に、もちろんビジュアルで言えばこんなキャラクターだなと想像できるのだが、彼の雰囲気は形容しづらい。なんとも高本オリジナルの空気感なのだ。
唯一無二と言っていいその空気感は、舞台上からも感じることが出来る。あの空気感があるからこそ、緊迫しているシーンへのエッジが効くのだ。
さて、先程ニュースで知ったが、彼は急きょピンチヒッターで本番直前に代役を務めることとなったようだ。重要な役のようで膨大なセリフ量と段取りを短期間で覚えなければならない。でも彼ならやりきれるだろうな、とそのニュースを拝見して感じていた。
彼は努力家であり、何事にも動じない性格を持っている。
そして、大変な状況でも周りを明るくさせることが出来る。
たまたま劇場近くで用事があり慰問を兼ねて(ご時世的に遠巻きから)ご挨拶させて頂いたが、植田圭輔、丘山晴己といった存在感のある先輩俳優に囲まれながら、
「1時間しか寝てないです…」
と大変そうな状況を笑いながら語っている顔は実に頼もしく、愛嬌を振り撒いていた。
それは元々所属していた劇団の後輩の代役のようだ。そんなのかなりのヒロイズムじゃないか。きっと苦境を乗り越え、成し遂げたに違いない。
そしてこの経験が彼の更なる成長につながることは間違いない。
一つの舞台を助ける救世主となるまでに成長した高本くんを見て、私も元気づけられた。交流する相手を元気づけさせることが出来る、それが高本学の最大の武器なのだ。観客や相手役に栄養を与えるのが俳優の大きな特徴である。
短期間の稽古で大変だと思うが、いつものように交流する相手にたくさんの栄養を与えたのだろう。
遠巻きからエールを送っていたよ。
マチソワとは――昼公演という意味の「マチネ」と夜公演を意味する「ソワレ」を組み合わせた言葉。マチソワ間(かん)はマチネとソワレの間の休憩のこと。
広告
広告