連載コラム「吉谷晃太朗のマチソワタイム」vol.31
演出家・吉谷晃太朗さんが若手俳優をランダムに紹介していく連載コラム。第31弾は和合真一さんの魅力に迫ります。
舞台「文豪とアルケミスト」シリーズなどに出演してきた和合さん。非現実が入り混じる舞台作品にもリアルを与える、その不思議な雰囲気について考察していきます。
* * *
和合真一について
俳優という職業を選ぶ人はどこかしら変わったところがあると思われがちであるが、案外、真面目で引っ込み思案で好青年など、イメージを覆されることも多いと思う。
しかし彼に関しては、世間から思われているイメージのご多分に漏れず、さらにそれを超えてしまう程、不思議な雰囲気を纏わせている。
“ワゴウシンイチ”である。
「令和の和に合格の合、真実はいつも一つ(だけど生まれは昭和だよ!みえなーい!)」と書いて和合真一である。
カギカッコ内のキャッチフレーズをイベントや稽古場問わず披露するのが彼の定番のスタイルだ。
確か若手の頃、オーディション時にもそのような感じであいさつしてくれた気がする。オーディションという独特な緊張感漂う空間でよくやったな、と感心したものだ。
確かにどうにか印象に残そうと一生懸命アピールをする若手俳優も多いのだが、和合くんはアピールということではなく、常に自然体で発しているようである。
さて、「雰囲気を纏う」ということは大きな才能であり、誰彼もが実際に行おうと思ってもやれないものである。それは先天的な才能の一つであると思う。
舞台は現実と非現実が入り混じる独特な空間である。現実的なリアルは、舞台では逆にリアルではなくなることだってある。
そういった舞台版のリアル世界の中にいて、違和感なく存在できる人物は、独特な雰囲気を纏うことで観客にあたかもリアルであることを錯覚させることができる。和合くんはそういう力を持った俳優だと思う。
舞台「文豪とアルケミスト」で江戸川乱歩という役柄を演じてもらったが、彼の醸し出す雰囲気がつくった(つくらされた)演出があった。終盤の緊迫感のあるシーンで、おもむろにその状況を説明し出すというシーンだ。
それは紛れもなく和合くんだから成立した(してしまった)演出である。
彼の雰囲気に拍車をかける重要な要因の一つは、彼が滅多に動じたり怒ったりしない、漂う風や川のようなニュートラルな存在であることが大きい。
また、彼もデザイナーの顔を持つマルチタスクの人間で、よく休憩時間に彼のデザインしたものを見せてくれる。
きっと俳優という仕事だけに固執する訳ではなく、さらにデザイナーは俯瞰的に物事を捉える力を持っている。だからニュートラルなのだろう。
もしかすると、俳優の仕事も俯瞰的に捉えているのかもしれない。
そう見ると実は彼の雰囲気は先天的なものでなく、デザイナーとして俳優・和合真一を後発的に作り上げているという仮説も考えられる。
「さて真実はいかに…? でも真実はいつも一つ」
マチソワとは――昼公演という意味の「マチネ」と夜公演を意味する「ソワレ」を組み合わせた言葉。マチソワ間(かん)はマチネとソワレの間の休憩のこと。
広告
広告