連載コラム「吉谷晃太朗のマチソワタイム」vol.30
演出家・吉谷晃太朗さんが若手俳優をランダムに紹介していく連載コラム。第30弾は北川尚弥さんの魅力に迫ります。
音楽劇「金色のコルダ Blue♪Sky」、ミュージカル「スタミュ」シリーズ、歌劇「明治東亰恋伽」などに出演してきた北川さん。常に自然体でいる姿勢は、宮本武蔵が唱えた『構え有りて、構えなし』の精神に通じると、吉谷さんは言います。
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北川尚弥について
僕が演劇にプレイヤーとして関わっていた時代とは随分と変わったなーと思う時がある。
以前は演劇者とはかくあるべきみたいな、演劇に携わる作法というか心得というか、そういうものが強く根付いていた時代があった。また表現方法や技術においても、そして俳優という仕事に関わる人たちも大きく様変わりしたと思う。
平成というか令和の世代というか、どこか飄々として現場にもまるでキャンパスライフを楽しんでいるかのように現れる。ひたすら苦悩して作品を作り上げるというイメージの演劇の世界において、なんだかそのこと自体も楽しんでいるような、そんなキャラクター。
北川くんは新しい時代の俳優だと思う。
彼とは3つほどの作品でご一緒したが、いつか「北川くんって大学生みたいな雰囲気あるよね」と言ったら、本当にその時大学生だったりした。
キャンパスにいる時と雰囲気が変わらない。
きっと北川くんはどんな場所に行っても常に自然体のままいるのではないかと思う。
仕事モードや勉強モード、遊びモードなど、モードを切り替えることでみんな生活していると思うのだけど、北川くんはいい意味でそのモードチェンジの瞬間が見つからない。
かといって、エンジンがかかってないかと言われればそうではない。きっちりと仕事をこなすし、情熱のある芝居も見せてくれる。
僕の知りうる限りミスを見たことがないし、本番前に緊張している感じも全く見えない。表現をする世界において、常に自然体でいることは理想の姿ではないだろうか。
視野が狭くならず共演者の微細なニュアンスを汲み取れたり、
事件というハプニングで大きく心が動いたり、
脚本分析を先入観なくでき、キャラクターの歩く道を判断したり、
型を重視して演技という枠にはまらないようにしたり。
「道筋を知り自然体でいること」
なんと、これは宮本武蔵の「五輪書」につながる概念だと気付かされた。北川くんをコラムにしていたら、イメージに宮本武蔵が現れるなんて、予想だにしなかった!
『構え有りて、構えなし』
北海道の広い大地に生まれた北川くんは、かの剣豪の精神を会得しているというのだろうか。
実際、武道と同じく演劇の世界でも自然体を理想としているのに、まず型が重視される。なぜなら「型は上達への手がかり」だからだ。
「稽古のことは忘れて、本番は無心で挑む」
自然体は演劇における大事な道にもつながる。
誰からも愛される愛嬌あるキャラクターとともに、常に笑顔を周囲に振りまいている北川くんは、現場の癒やしになっているだけでなく、大袈裟ではなく演劇に関わる姿勢の大事さに気付かされる。
一度心が乱れに乱れる悲劇のような作品で再会してみたいと思った。
道は観念ではなく実践によって鍛えられる。僕にはまだ見ぬ新しい境地に開眼した彼の姿を見てみたい。
マチソワとは――昼公演という意味の「マチネ」と夜公演を意味する「ソワレ」を組み合わせた言葉。マチソワ間(かん)はマチネとソワレの間の休憩のこと。
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