連載コラム「吉谷晃太朗のマチソワタイム」vol.24
演出家・吉谷晃太朗さんが若手俳優をランダムに紹介していく連載コラム。第24弾は山田ジェームス武さんの魅力に迫ります。
ミュージカル「ヘタリア」、舞台「RE:VOLVER」、舞台『カレイドスコープ‐私を殺した人は無罪のまま‐』などに出演してきた山田さん。俳優における重要なタスクを3つに分解・分析していくと、導き出される俳優像はまさに山田さんだと吉谷さんは言います。
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山田ジェームス武について
今はマルチタスクが求められる時代だ。データやコミュニティー形成の基盤が整い、個人で様々なことをやれてしまう。転じて、やっていかなければどんどん時代の価値観に追い越されていってしまう。
山田ジェームス武という俳優はマルチタスクの申し子だと僕は思う。
マルチタスクはそれ自体を楽しむことで継続性を生み出し、常に頭を切り替えていかなければ出来ないからだ。その素養と能力が彼にはある。
そもそも俳優という職業はマルチタスクが求められる。今回、俳優という職業に対して分析を行うが、その分析の先に導かれる特性に当てはまる人物が山田ジェームス武という男だ。
さて、俳優にとって役を作り上げる上での大事なタスクを整理してみる。
(1)台本に書かれている役を「分析」する。
(2)その役の経験を自分の経験に当てはめ「追体験」していく。
(3)追体験に影響され「感情」を生み出していく。
(1)において、ITや戦略的なゲームが得意であり、さらにファッションデザイナーでもある彼は分析能力に長けている。彼は台本から導き出される要点、求められる役割を感じ取れる能力を持つ。
「分析」は農業で言えば土を耕す重要な作業であると言っていい。それをゲームやデザインのように楽しみながらやれてしまうのが彼の長所である。
(2)と(3)はその俳優の個性が生かされる部分だ。役を演じるという作業は主に感情や経験に基づいたものである。
涙もろく感情の振れ幅の大きい彼は、今まで生きてきた中で体験してきたことを感情形成における最大の養分にして、役の感情の芽を生み出している。
マルチタスクという響きは一見、データ至上主義の冷静でドライな印象にも思えるが、俳優におけるそれはとても情熱的で感情的なものが左右される。
そしてバスケットボールやスノーボードが得意な彼は、役を体現させる為のフィジカルバランスや運動能力にとっての下地が十分に出来ており、歌やギターの経験で培われたリズム感と声は心地よい台詞を生み出していく。
モデル出身の彼の最も印象的に思える目の大きさと眼力の強さは、観客に鮮烈な印象を作り出す。これが生み出させるものは彼の出生にも大きく関わる事だろう。
父方の祖父母が日本とスペイン、母方の祖父母がフィリピンと中国。多国籍なバックボーンを持つ彼は、考え方や価値観においても多様的である。
多様性や調和、個性が謳われる時代。
山田ジェームス武は、この時代に生まれるべき俳優であり、その能力が存分に生かされる時代でもある。
マチソワとは――昼公演という意味の「マチネ」と夜公演を意味する「ソワレ」を組み合わせた言葉。マチソワ間(かん)はマチネとソワレの間の休憩のこと。
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