連載コラム「吉谷晃太朗のマチソワタイム」vol.23
演出家・吉谷晃太朗さんが若手俳優をランダムに紹介していく連載コラム。第23弾は寿里さんの魅力に迫ります。
舞台「BASARA」、ミュージカル「忍者じゃじゃ丸くん」、ミュージカル『ふしぎ遊戯』、ミュージカル「ヘタリア」などに出演してきた寿里さん。常に自然体である彼の姿勢は、現場や人とのマッチングスキルにつながっていると吉谷さんは指摘します。
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寿里について
今とある作品の撮影現場に来ている。シャッターが切られ、数多く撮られ続けていく写真データを見て、改めて度肝を抜かされた。「一体何頭身なんだ?」。その抜群のスタイルの良さは、まさに漫画やアニメから飛び出してきたようだ。
西洋風の煌びやかな衣装。これを完璧に着こなせる日本人俳優はそうそういない。
顔と体格のバランスの良さ。モデル時代に培った一瞬一瞬の表現。日本人離れの類まれなスタイルと表現者としてのセンスを併せ持つ驚異の美しき俳優、それが寿里である。
ルックスの良さはもちろんのこと、彼が俳優としてずっとコンスタントに求められ続けるのは、彼のその人柄とセンスに起因していると思う。
ベテランに差し掛かり始める年齢にあって、とっつきにくい無骨さがあるわけでもなく現場に笑顔で現れる。かといって笑顔を押し売る感じでもない。
あくまで自然体として、自然に周りを笑顔にさせる。寿里がいる現場は心地が良い。彼は自然に現場の空気の一つとなる。
きっと周りや自分自身のことを深く分かっているのではないかと思う。
笑顔で作り上げられた柔和な空気の中で彼は、絶対に人のことを邪魔せず淡々と自分の仕事をこなしていくのだ。
あの大きな男がそばにいても全く気にならない。そんなことがあるのか。それが出来てしまうのが寿里の現場や人へのマッチングスキルなのだ。
現場や人のことをよく見ていないと出来ないだろう。目線的に人の頭頂部ばかり見える彼がなぜここまで人のことが分かるのか、不思議に思う。きっと神の属性に近い人なのかなとも思う。
スポーツ一家に生まれた彼は、芸術表現の場で勝負をしなければならない時と、そうじゃない時の佇まいの使い分けが巧みである。
使い分けというよりも自然と切り替わっているように思える。切り替わったポイントすら分からない。それはまるで、どんな球種を投げてもフォームが変わらないピッチャーのようだ。さすがプロ野球の世界で一流の捕手を務められた兄を持つ男だ。
表現者としては、かっこいい役も可愛い役も、正義のヒーローも悪役も主人公も脇役も敵役も、人や動物、物まで様々演じ分ける。
演じるということへの最大の楽しみとリスペクトがあるのだと思う。
そして自然体でいることこそが、表現者のアンテナとして、どういうことを求められているかを察知できるのだとしたら、彼の現場に佇まいは誰もが参考とすべき姿ではなかろうか。
歌やダンス、アクションの能力も高く、お芝居を楽しんでいる。
後輩思いで面倒見がよく、上の人間への配慮も忘れない。
寿里がこの業界で生き続けてくれることは、この世界にとって大きな財産である。
マチソワとは――昼公演という意味の「マチネ」と夜公演を意味する「ソワレ」を組み合わせた言葉。マチソワ間(かん)はマチネとソワレの間の休憩のこと。
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