連載コラム「吉谷晃太朗のマチソワタイム」vol.19
演出家・吉谷晃太朗さんが若手俳優をランダムに紹介していく連載コラム。第19弾は久保田秀敏さんの魅力に迫ります。
吉谷さん演出の舞台「文豪とアルケミスト」シリーズで芥川龍之介を演じた久保田さん。彼が披露する華麗なアクションは、リアルへの意識の高さが影響していると指摘します。
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久保田秀敏について
久保田くんは雰囲気を纏える俳優である。キャラクターの持つ空気感を最大限に醸し出せる人だ。脚本や原作に描かれた二次元的人間像を立体的に構築する為に最も効果的なものが、雰囲気を掴むということである。
雰囲気は、観客や共演者に与える影響力が大きく、キャラクターがそのキャラクターたる人間性を他人へ伝える力を持つ。その力が三次元の人間の優位性でもある。それほど雰囲気作りは重要なのだ。
話を聞いたら久保田くんも演劇が好きなのだと言う。どこか飄々としているようで、心は熱い。台本を読んでいる時によく眼鏡をかけている姿を見る。その姿はまるで職人。理知的でいて板の上ではとても感覚派、クールでいてとても情熱的、職人気質もある。普段から雰囲気のある不思議な魅力の俳優だ。
彼の大きな武器の一つは、アクション(立ち回り)の華麗さである。
舞台「文豪とアルケミスト」でも感じたのだが、剣の軌道が抜群に綺麗だ。『斬る』や『突く』といった行動に感情が乗り、剣の先にまで無駄のない動きの表現として構築されている。
西洋の刀は相手を叩き斬る(打撃イメージに近い)行為に比べて、日本刀は相手に刀を当てて引く行為だ。熟練の寿司職人の魚の捌き方は美しい。そして美しいが故に切れ味がよい。日本刀もまた美しい太刀筋であればある程、人をより斬れると考えて間違いないだろう。
つまり、日本刀の捌きが美しいということは即ち、人を実際に斬る動作のリアルとリンクすることである。
久保田くんの刀の軌道が美しいのは、もちろん彼の運動能力と指導者にきちんと習った経験に裏打ちされているのは確かだ。それと同時に人を斬るということのリアルへの意識が高いからなのではないだろうか。
ただ刀を振っているだけでは斬ったことにはならない。刀身を対象物に対してまっすぐに当てなければならない。
本当に斬るという意識を持っていないとおざなりになってしまう部分ではあるし、その所作は、パフォーマンスにおいてはもちろん、あたかも本当に斬っているかのように見せることが求められる。
彼はその所作が非常に巧みなのである。
久保田くんは昔、美容師をやっていた。つまり『切る』という行為のリアルを掴んでこれた経歴を持つ。
そしてサービス精神があり、お店の雰囲気も含めてお客様に「その場」を提供する。そういった経験が、エンターテインメントの世界で観客をその世界へ誘う雰囲気を纏う、現代の美剣士“久保田秀敏”を作り上げる重要な要因になったのではないだろうか。
美容師、俳優、両方の夢を叶えたという彼は、まるで漫画の主人公のような設定だ。
こういったところでも彼が二次元を凌駕し、三次元を生き抜ける証拠なのかもしれない。
マチソワとは――昼公演という意味の「マチネ」と夜公演を意味する「ソワレ」を組み合わせた言葉。マチソワ間(かん)はマチネとソワレの間の休憩のこと。
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