連載コラム「吉谷晃太朗のマチソワタイム」vol.16
演出家・吉谷晃太朗さんが若手俳優をランダムに紹介していく連載コラム。第16弾は吉岡佑さんの魅力に迫ります。
ミュージカル「ハートの国のアリス」、歌劇「明治東亰恋伽」シリーズ、超歌劇『幕末Rock』シリーズ、ミュージカル「少女革命ウテナ ~深く綻ぶ黒薔薇の~」などに出演してきた吉岡さんを、物語に深み与える“悪役”の観点から取り上げます。
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吉岡佑について
身長が高くスラっとしたシルエット。こんなにスタイルのいい男がいるんだなと驚いた。
あいさつをさせてもらうと笑顔で迎えてくれて、低く渋い心地の良い声が響く。そして近づいても全く身の危険を感じない朗らかなオーラ。
交流を続けてみるととても繊細で優しい男だとわかる。まさに沖縄人らしいと感じさせる温かな性格。容姿、性格を含めた出来上がりっぷりは、まさに2次元の世界から飛び出してきたかのような印象を持った。
主人公からダークヒーローまで様々な役回りで活躍する俳優、それが吉岡佑だ。
繊細な性格は、役作りにおいていいプロセスを与える。
感覚や知性を積み立てて作り上げる役作りにおいては、例えそれが粗野で豪快な役であっても、豪快に一気に作り上げることなど出来ない。繊細に緻密に作っていく。そう言った意味でも彼は良い俳優の特性を持っている。
実際に演じている時、例えばアクションの入るステージにおいても大きな役割を担ってくれる。
ダイナミックな立ち回りに色の濃すぎない見栄切り。
彼が主人公をはじめ味方側にいる場合、存在感のある彼がセンターにいると彼中心に世界が動いていくのだが、不思議と周りの登場人物も引き立っていく。彼の人格が現場にいい影響を与え、いいチーム作りの原動力となっているのだ。
まさに味方チームにとって大きな戦力をもたらす人物だということがわかる。
では、対する敵とされる悪役は、どんなキャラクターであると物語が面白くスリリングになるのか。
主人公にとって到底越えられないと思わされる大いなる壁であり、その半面、非情に見える先にある優しい心が垣間見られると、主人公は葛藤の末に振り上げた武器を納めたくなる。そんな奥の深い素性と性格。
そのような敵は圧倒的な魅力を持つキャラクターであり、観客が追体験する主人公チームの他、悪役もまた感情移入の対象となる。そんな物語は重層的で面白くなって当然だ。
吉岡くんは、それを体現出来るキャラクター性を持っているのだ。
今まで私が関わらせてもらった舞台でも、彼はほとんど悪役と言える役回りだった(それはそれで彼をいつもそんな風に見ているのか、と誤解を受けそうだけど)。それだけ物語に深みを与えたいという現れでもある。
ちなみにこの業界にはモデルのお姉さんの推薦だそうだ。絵に描かれたような容姿端麗の姉弟の写真を見た。
この世界にモデルのお姉さんに推薦を受けられる弟というキャラクターが何人いるんだろう。
そんな羨ましさから生まれる嫉妬によって、僕は彼を潜在的に悪役にしたがるのかもしれない(笑)。
マチソワとは――昼公演という意味の「マチネ」と夜公演を意味する「ソワレ」を組み合わせた言葉。マチソワ間(かん)はマチネとソワレの間の休憩のこと。
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