コラム

三津谷亮、“不安定な場所”から生み出す感情のうねり【演出家・吉谷晃太朗 連載コラム】

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連載コラム「吉谷晃太朗のマチソワタイム」vol.15

演出家・吉谷晃太朗さんが若手俳優をランダムに紹介していく連載コラム。第15弾は三津谷亮さんの魅力に迫ります。

超歌劇『幕末Rock』シリーズ、舞台「文豪とアルケミスト」シリーズなどに出演してきた三津谷さん。彼が放つ“揺れる言葉”の魅力を軸に、俳優としての真価に迫ります。

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三津谷亮について


彼は『揺れる言葉』を武器に出来る俳優だ。

大事な人を失った時、怒りに打ち震えた時、喜びに満ちた時、困難を乗り切った時、感情が体や口の動きに影響し、人はナレーションのように安定した言葉を発することは出来ない。揺れる言葉を発することは演技がリアルであるということの証明だ。

そういった台詞を出せる三津谷くんには、その場で巻き起こっている感情の大きなうねりのようなパワーが見える。

そのパワーは観客にとって、そのキャラクターの感情を体感させる程のエネルギーとなり、見ている人の喜びを導き、涙を誘い、感動させる。彼本人が繊細で感受性が豊かなのも大きな要因となる。

でも、繊細で感受性の豊かな人がみんなそういった演技が出来るかと言うとそうではない。では彼はどういった演技をしているのか?

「常に感情が揺れ動く不安定な場所にいる」

僕が大事にしている演技の考えの一つだ。舞台は本番まで多くの稽古を繰り返す。

その中で俳優は台詞を覚え、段取りを覚え、本番に立つための安心を覚えていく。そして繰り返し本番を行う。ともすればいつか役を演じている『フリ』だけで進むことも可能になっていくのだが、三津谷くんにはそういったことを感じない。

常に不安定な場所にいてくれる。そこはつまり、未来に何が起こるか分からない現実世界と同じだ。

感情が不安定であるということは、同時にミスをしてしまう可能性がある状態である。その状態で舞台に立つのは本来怖いことだ。彼は常にそこにチャレンジしてくれる。それは経験に裏打ちされていないと出来ないことだ。

あと度胸と繊細さのバランスもいい。彼は大きい舞台での経験もさることながら、観客と同じ空間にいることをダイレクトに感じられる小劇場でも経験を繰り返し積んでいる。観客の息遣いや感情も感じられる空間にいて、感情を揺れ動かすことの演技法の重要性を肌で感じているのだろう。

また彼は人柄がとても良い。自分が誰かの優位に立とうということを求めていない。それも安定した場所にいたくないという気持ちの表れのような気もする。

奇しくも彼はかつて一輪車の世界大会で二度世界一になっている。(さらっと触れるけどすごいことだな)

常に神経を尖らせていかないと真っ直ぐに立っていられない「不安定な場所」が三津谷くんが得意とするステージなのだ。

この先も何が起こるかわからない未来、三津谷くんの演技が安定して不安定であることで、これからも観客の心に深く届くことを期待している。


マチソワとは――昼公演という意味の「マチネ」と夜公演を意味する「ソワレ」を組み合わせた言葉。マチソワ間(かん)はマチネとソワレの間の休憩のこと。

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