連載コラム「吉谷光太郎のマチソワタイム」vol.11
演出家・吉谷光太郎さんが若手俳優をランダムに紹介していく連載コラム。第11弾は磯貝龍乎さんの魅力に迫ります。
ミュージカル「ヘタリア」シリーズ、ミュージカル「AMNESIA」、ミュージカル「ハートの国のアリス」、舞台「RE:VOLVER」、舞台「カレイドスコープ」に出演してきた磯貝さん。吉谷さんは自身の師の言葉を引用してメッセージを贈ります。
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磯貝龍乎について
繊細なのに存在感がある。サービス精神が旺盛なのに芸術家気質。ダイナミックなのにスピーディ。俳優にとっての希少で貴重な要素が彼には詰まっている。
コメディからシリアスまで様々な役を演じられる俳優、それが磯貝くんだ。
本来、彼のような体躯の持ち主は役を限定させられていてもおかしくないのだが、実に様々な役をお見受けする。
それは天性の器用さと繊細な表現力の賜物ではないかと思う。また、第三者的な視点を持ち、観客にとって演出家にとって自分が何を求められているかを察知出来ているからなのだと思う。
以前少しだけ気になっていたのが、磯貝=コメディ俳優のような立ち位置というイメージを、彼自身で持っていたような気がしたこと。
確かに面白いし器用だし、観客に喜んでもらおうと結果をきっちり残しているからこそのイメージと思うのだが、コメディ俳優という枠のみに収まらないのではないかと思った。
とはいえ「イケメンなのに面白い」という、“イケメン俳優”というカテゴリーの中でそのように立ち振る舞えるものまた貴重ではあるし希少でもあるのだけど。
いい仕事をする結果、そういった固定のイメージが強かったので、現場でもっと彼の本質を見てみたいと思い注視した。
結果、内面は深く表現について思い悩みながらこの世界を生きているのだと思った。
最初に書いた「○○なのに××」。
浅そうに見えて実は深い(ちなみに浅そうに見えるのは彼のSNSの発信の仕方に起因する)。このギャップ効果は彼の魅力を押し出すのに一役買っている。
最近自身の固定イメージの脱却からか、溢れ出るイメージの爆発からか、彼は最近脚本家や演出家の顔も持つ。そこでも才能を広げている。アイデアがとても面白い。
ともすれば徐々に自分のフィールドをクリエイター側にシフトしていくのかもしれない。
すべからく若手から中堅どころになっていくタイミングでそういうことも考えるものだ。
経験というものは物作りのリーダーとして皆を引っ張ることも出来る。
僕は劇団時代に師匠に「俳優のことがわかる演出家になりなさい」と言われ、できるだけ長く俳優という役割を務めていた。
磯貝くんもそういうパフォーマーでありクリエイターになってもらいたい。俳優にとっていい兄貴のような存在が演出家であることは、とても心強いことなのだから。
俳優の苦悩を知っているからこそ、俳優として喜びを感じる舞台作りをしてもらいたい。
かつて師匠に言われた言葉をそっくり伝えよう。僕は師匠に背いた形になってしまっているが、磯貝くんにはぜひ実現してもらいたいと思う。
「君は俳優をやり続けて下さいね」
マチソワとは――昼公演という意味の「マチネ」と夜公演を意味する「ソワレ」を組み合わせた言葉。マチソワ間(かん)はマチネとソワレの間の休憩のこと。
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