コラム

平野良、論理と知識に裏付けられたこと【演出家・吉谷光太郎 連載コラム】

連載コラム「吉谷光太郎のマチソワタイム」vol.7

演出家・吉谷光太郎さんが若手俳優をランダムに紹介していく連載コラム。第7弾は平野良さんの魅力に迫ります。

吉谷さんが手掛けたミュージカル『ふしぎ遊戯』シリーズでは鬼宿役、舞台「文豪とアルケミスト」シリーズでは太宰治役でそれぞれ主演、「ミュージカル封神演義‐開戦の前奏曲-」では趙公明役を務めた平野さん。合理的で論理的、舞台上では情熱的な彼の姿は、周囲の人間に刺激を与えると吉谷さんは言います。

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平野良について


いつもどんな時でも観客の目線で役を構築出来る俳優、それが平野くんだ。

稽古準備や稽古に挑む時、合理的で論理的で最適な魅せ方を常に模索してくれる。その姿勢は周りの俳優にとって見本となる姿であり、共演者にいつもいい影響を与えてくれている。

多くの俳優から彼と共演したいと言う声があるのも頷ける。

では平野くんが本番でも常に合理的で、計算され尽くした寸分の狂いもない演技をしているかというと、そうではない。

人生において、ビデオグラムのように何も変わらないものというものは一つもない。複数回公演を行うということは、それは焼き写しではなく、何度も新しい物語を歩んでいるということなのだ。

俳優は同じ台詞、段取りであっても、いつもその時に生まれ出る感情を作っていかなくてはいけない。宇宙空間のように全く同じものがない刻一刻と変わるもの。それが人間なのだから。

役を論理的に追及し向き合うのは稽古場や稽古場に入る前。ルールに縛られたゲームが夢中になれないのと同じように、俳優は本番では稽古や準備のことなど忘れて夢中で演じなくてはいけない。

平野くんは先程まで理論を構築していた人物とは思えない程、情熱的かつ純真な子供のように夢中に演じる。

熱く芝居に夢中になっている姿は観客にも伝わり、準備と鍛錬で作り上げた役を通して彼の人間的魅力に気づいていく。論理に裏打ちされた演技は、演出家が欲しいタイミングで的確に観客の心に刺さる。

「蝶のように舞い蜂のように刺す」

かつてのアメリカのボクサー、モハメド・アリのボクシングスタイルを表した言葉だ。平野くんのスタイルを彼が演じてくれた役になぞらえて言うと、

「サナギの中(稽古場)で十分に準備をした後、蝶(趙公明)のように舞い、蜂(太宰)のように刺す」といったところだ。

また、歌えて踊れて3枚目も2枚目も主役も悪役もMCもこなす。それは彼の引き出しの多さの証明だ。持ち前のセンスもあるだろうが『センスは知識からはじまる』という本があるように、まさに彼の芝居センスは知識に裏付けされたものだろう。

彼はタブレットで台本を確認しマッサージガンで筋膜ケアを忘れない。必要なものを購入し、生産性を上げる。合理的で論理的だ。

俳優にとって何が必要かを第三者的目線で判断出来る。

一度、俳優の道を離れサラリーマンを経験していることも大きいのかも知れない。

そんな彼を見て、僕もタブレットやマッサージガンを買った。今も台本と肩こりと向き合いながら演出家を続けている。

僕も平野君に影響を受けている表現者の一人だ。


マチソワとは――昼公演という意味の「マチネ」と夜公演を意味する「ソワレ」を組み合わせた言葉。マチソワ間(かん)はマチネとソワレの間の休憩のこと。

WRITER

吉谷 晃太朗
								吉谷 晃太朗
							

演出家・脚本家
大阪府出身。同志社大学文学部卒業。高校在学中より劇団ひまわり大阪俳優養成所に入所。その後大阪シナリオスクール、伊丹想流私塾を卒業し、男性演劇ユニット「Axle(アクサル)」に脚本家、演出家、俳優として参加。人気漫画の舞台化で人気を博す。ミュージカルやショー、アクション物、新喜劇など、幅広いジャンルで活動中。

Twitter:https://twitter.com/koutaroyositani

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