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安西慎太郎、劇世界に射す一筋の光のように…【演出家・吉谷光太郎 連載コラム】

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連載コラム「吉谷光太郎のマチソワタイム」vol.6

演出家・吉谷光太郎さんが若手俳優をランダムに紹介していく連載コラム。第6弾は安西慎太郎さんの魅力に迫ります。

吉谷さん演出の舞台「戦国無双」関ヶ原の章で主演したほか、舞台「男水!」、舞台「RE:VOLVER」などに出演してきた安西さん。彼の“台詞力”と醸成する雰囲気は、多くの演出家を魅了する吉谷さんは言います。

* * *

安西慎太郎について


俳優にとって大きな仕事は、ある役となり与えられた状況の中、そこに立ちはだかる障害に対して、その状況を真に変えたいと強く願い、言葉や行動をもって変革を実現させることである。

しかし、大きな声で叫ぶだけでは想いの実現には程遠く、障害に向かってただ強く走ってぶつかっても壁の向こう側に心は届かない。

心を届かせるには、俳優自身の中から溢れ出る想いを乗せた言葉や行動が必要である。

まるで曇天の重たい空気のような劇世界の状況の中で一筋の光が射すように、相手役や観客一人一人に言葉を飛ばせる俳優。そして大きなエネルギーを練磨・育成させている証拠である飛び散る汗を清々しいまでに輝かせながら、姿勢良く舞台の中心に存在する俳優。それが安西慎太郎だ。

特に安西くんの台詞力は特筆すべきものがある。

どんなに叫んでも一語一句、クリアに台詞を飛ばせる。舞台芸術は俳優の出す言葉を通して、ある思いや考えを観客に届かせたいわけであるから、観客一人一人に正確に強く届かせる台詞力を持つ彼と、多くの演出家が仕事をしたがるのも当然だろう。

稽古場でも演出席へ力強い言葉を飛ばして作品の手応えを感じさせてくれる。

また彼は、天然でストイックだ。

役というものは知性や理性に囚われすぎると心が通わず、ただそこにロボットのように存在するだけになる。稽古場で真面目な顔で誰も反応できないような突拍子もない冗談を言ったりする安西ワールド100%の天然度合いは、知性や理性を超えて役に心を植え付けることに一役買っていると言えるだろう。

そして、与えられた役の考察とそれを自分の体に落としこむ為の修練に多くの時間をかける。一人の人間を多角的に追求する俳優という職業にとって、ストイックさがアドバンテージとなるのは言うまでもない。

安西くんから醸し出させる雰囲気は、彼に与えられる役にも影響していると思う。葛藤の大きい、障壁の上に暗雲が立ち込めているような状況の役が多いのではないだろうか。安西慎太郎だからこそ、安西慎太郎の特性を最大限に活かした難しい役をやってもらいたいと思い、プロデューサーも演出家も彼にお願いすることが多いのだろう。

大きな葛藤を乗り越え、劇のカタルシスを安西くんが増長してくれること、突き抜ける爽快さを期待しているのじゃないかと思う。

彼を見出したマネージャーが彼を見つけたのは、高校演劇での彼の姿だったらしい。まだまだ原石だった彼の演技は、たくさんの俳優を世に出すマネージャーの目に飛び込んできたのだろう。

それから研鑽を重ね、頼れる俳優としていい年齢に差し掛かっている。

彼に敬意を表して突拍子もない駄洒落で締めたいと思う。

「安」西「慎」太郎…どんなに難しい役も彼に任せておけば「安心」だ。


マチソワとは――昼公演という意味の「マチネ」と夜公演を意味する「ソワレ」を組み合わせた言葉。マチソワ間(かん)はマチネとソワレの間の休憩のこと。

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WRITER

吉谷 晃太朗
								吉谷 晃太朗
							

演出家・脚本家
大阪府出身。同志社大学文学部卒業。高校在学中より劇団ひまわり大阪俳優養成所に入所。その後大阪シナリオスクール、伊丹想流私塾を卒業し、男性演劇ユニット「Axle(アクサル)」に脚本家、演出家、俳優として参加。人気漫画の舞台化で人気を博す。ミュージカルやショー、アクション物、新喜劇など、幅広いジャンルで活動中。

Twitter:https://twitter.com/koutaroyositani

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