連載コラム「吉谷光太郎のマチソワタイム」vol.1
演出家・吉谷光太郎さんが若手俳優をランダムに紹介していく連載コラム。第1弾となる今回は植田圭輔さんの魅力に迫ります。
舞台「戦国無双」、ミュージカル「ヘタリア」、「王室教師ハイネ-THE MUSICAL-」、舞台「RE:VOLVER」など、吉谷さんと共に作品をつくり上げてきた植田さん。彼が言い放つ台詞には、観客の心に鋭く突き刺さる力があると吉谷さんはいいます。
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植田圭輔について
「魂を震わせること」
俳優の仕事で一番重要なことだと僕は最近感じている。
俗に「台詞に力がある」「感情的な演技」「目力が強い」「テンションが高い」など、それらは震わせた魂をエネルギー源にして俳優の体から発せられるからだ。
その魂を震わせる技術に天賦の才を持つことが、植田圭輔という俳優の最大の魅力だと僕は思っている。
魂のエネルギーが彼の発する台詞や起こす行動と同調し、舞台上から大きな力となって解き放たれる。彼の演技が観客の心まで強く大きく鋭く突き刺さるのは、魂のエネルギー値が非常に高いことに起因する。
そうして観客は、彼が演じる登場人物の心を心で共感できるのである。
演劇におけるライヴ感もそこに生まれてくる。ライヴ感とは、観客がさもその世界に存在するような錯覚を起こすことだ。
彼は例え舞台上に一人でも、そのエネルギーを持って観客を世界に引き込む力を持っている。
力がなければ世界には誘えない。観客はずっと劇場という空間の座席に座ったままだ。その場所から力強く手を引いて世界についてきてもらうのだ。
その世界の登場人物は例えば、
“大切なものを奪われることで嘆き苦しむ”
“大切なものを思い出し悲しむ”
そして
“大切なものを奪い返す為、復讐をする為に再び立ち上がる”
それらは全て登場人物の魂の震えが関わってくる。障害や逆境の壁は、魂の震えの振れ幅を持って飛び越えることが出来るのだ。
最近僕が学んだことで「俳優は常に子供のように存在しなければならない」という言葉がある。この言葉を聞いた時に思い出した俳優が植田圭輔だった。
理性や理屈に守られた、いわゆる大人としての佇まいは演技の邪魔になる。誰かが発した言葉に傷つき、感動し、影響され、自分の発した感情剥き出しの言葉で傷つけ、感動させ、影響させるのだ。
彼は多くの舞台に立って経験を積んでも、子供の心を持って舞台上で全力で遊びきる。切り傷や擦り傷はお構いなしに、敵や逆境にぶつかっていく。
そこには彼の身体能力の高さが生かされるのは当然であり、気持ちが乗った行動はダイナミズムを生む。
余談だが、彼のそんなイメージから僕のオリジナル舞台ではナイフを扱うキャラクターを演じてもらうことになった。
反骨精神によって作られた鋭い言葉に観客はハッとされ突き刺さる。それは観劇後に心地いい傷として残る。
植田圭輔の放つ言葉は深く突き刺さる激しいナイフのように観客の心に残していくことになるのだ。
ちなみにそんな彼はマチソワ間(昼公演と夜公演の間)の休憩ではよく寝て体力を回復させている。魂を削っている分、体力の消耗も激しい為だ。その無防備な寝顔は激しいパフォーマンスなどからは想像も出来ないほど可愛らしく、まるで劇場の妖精である。
マチソワとはーー昼公演という意味の「マチネ」と夜公演を意味する「ソワレ」を組み合わせた言葉。マチソワ間(かん)はマチネとソワレの間の休憩のこと。
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