コラム

キャラクターたちの成長を描くシナリオに感動 演劇「ハイキュー!!」〝進化の夏〞の魅力

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2020年4月30日から5月31日まで、演劇「ハイキュー!!」シリーズがDMM動画で配信されている。5月6日からは惜しくも東京公演のみで中止となってしまった〝最強の挑戦者(チャレンジャー)〞のゲネプロ映像の配信も始まった。

演劇「ハイキュー!!」は、週刊少年ジャンプで連載中のハイキュー!!を原作とした舞台である。プロジェクションマッピングなどの新しい演出を取り入れた、原作さながらの熱量が魅力の作品だ。

筆者はもともと原作が大好きで、演劇「ハイキュー!!」にもシリーズを通して足しげく通っていた。今回は、シリーズ作品の中少し違った輝きを放っていた〝進化の夏〞の魅力を振り返ってみたいと思う。

〝進化の夏〞が公演されていたのは2017年の9~10月。公演日程を振り返って、「3年前……?」と日付を数度見した。およそ3年という月日が経過しているにも関わらず、いまだにあの夏(季節上は秋かもしれないが、最高に熱い夏だったと言い張る)の記憶が鮮明なのだ。

進化の夏が上演されていた当時、筆者は途中で数えることをやめるほどの回数劇場へと足を運び、観劇するたびに推しチームの良さを再確認したり、キャラクターやキャスト陣の新しい魅力に気がついたりと、とにかく忙しい日々を送っていた。

今でも定期的にDVDを見返しており、“進化の夏”は好きな2.5次元作品TOP5に名を連ねている。今回は筆者が特に心惹かれた理由を、3つに絞って振り返ってみたいと思う。

進化を続ける演出の数々

演劇「ハイキュー!!」といえば、傾斜のある八百屋舞台が印象的だ。足元が回転したり、傾斜を利用することで漫画のコマから飛び出してきたようなインパクトを与えてくれる。

しかし進化の夏では、この八百屋舞台がなくなっている。教室や体育館は余計な装飾などなくシンプルな印象で、その分役者ひとりひとりの姿が輝いていたように思う。前作までは黒子演出も多かったが、今作ではモブ学生や通行人など、それぞれの衣装があり個性が光っていた。

もちろん、前作から引き継がれ、更に進化を遂げている演出も多い。演劇「ハイキュー!!」の魅力のひとつである和田による音楽は、今回も物語を鮮やかに彩ってくれていた。梟谷学園のサンバなどは、頭がぶん殴られるほどの衝撃を覚えた。まったく予想していなかった音楽だったが、梟独特の動きを取り入れたダンスと相俟ってしっくりとくる。

筆者は「サントラが早く欲しい」が観劇後しばらく口癖になっていた。中毒性が高い音楽だったので、もしサントラ未購入の方はこれを機におすすめしたい。

また、演劇「ハイキュー!!」の見所であるアクロバットは今回もふんだんに盛り込まれている。バク転やバク宙をはじめ、高難度の技も軽々とやってのけるキャストたちには毎回驚かされた。シリーズを重ねるごとに役者たちの身体技術が向上しているようで、天井の見えない成長も楽しみのひとつだ。

試合シーンではリフトを用いてスパイカーたちが最高到達点へと跳ぶのだが、その高さも圧巻。試合回数こそ少なくなっているが、その分学校毎の魅力はふんだんに散りばめられている。

物語を彩る初登場のキャラクターたち 名前のない登場人物まで個性が光る

〝進化の夏〞では、多くのキャラクターたちが初登場を果たした。総勢30名以上が舞台に立つ中で、彼らは埋もれることなく、かといって主張し過ぎることはなく物語に彩を添えていた。

今作で初登場となったのは、原作でも人気の梟谷学園と音駒学園の灰羽リエーフ。加えて、田中先輩の姉・田中冴子、マネージャーの清水潔子と谷地仁花たちという女性キャラクターも登場した。一部キャストについて、少しだけ魅力を振り返ってみたい。

木兎光太郎(演:吉本恒生):声や表情、ダイナミックな動き、それら全部をひっくるめて、末っ子気質の大エースだった。しょぼくれモードから、チームメイトたちによいしょされて立ち直るまでの流れが筆者の個人的な推しポイント。木兎の持つ天真爛漫さと、エースとしての力を存分に振りまいてくれた。

赤葦京治(演出:結木滉星):OPや試合中の、セットアップの動きが指先まで美しい。エースを立て直す手腕に長けた、冷静な赤葦だった。表情などもクールな眼差しが特に印象に残っているのだが、その分三太(※日向と一緒に練習をする小学生のうちの一人)の際のはじけっぷりは必見。ギャップが凄まじく、観客をおおいに笑わせてくれた。

田中冴子(演:佐達ももこ):スタイルが良い!!!と思わず叫びそうになってしまったのは、きっと筆者だけではないはず。圧巻のスタイルはもちろん、思わず姐さんと呼びたくなる姉御肌全開の素敵な冴子姐さんだった。

清水潔子(演:長尾寧音):今までは舞台上の演出のみで描かれていた潔子さん。今回満を持しての登場であり、潔子先輩の登場のおかげで主に烏野高校の部員たちの動きもより生き生きとしたものになったのではないだろうか。烏野高校のマドンナという名に相応しく、麗しい姿に目を奪われた。

谷地仁花(演:斉藤亜美):個人的に、“進化の夏”を盛り上げてくれたMVPを捧げたい。くるくると変わる表情や地べたに這い蹲って謝罪をする姿など、まるで原作から飛び出してきたかのような無邪気な愛らしさを放っていた。等身大の女子高生の谷地のおかげで、日常が色濃く描かれた今作がより魅力的なものになっていたと思う。

また、上記キャラクター以外にも、今回は名のない登場人物たち――いわゆるモブも輝いていたように思う。

例えば学校のシーン。影山と日向が勉強を教えてもらっている背景では、そのシーンに登場しないキャストたちが学生に扮して小芝居を繰り広げている。アドリブ要素も強かったのだろう。台詞こそないが表情や動きが毎回違っており、そちらを目で追いかけていたという人も多いのではないだろうか。

名のないモブたちは、言うなれば原作とは関係ない演劇「ハイキュー!!」ならではだ。どちらかというと俳優ファンへのご褒美要素が強いかもしれないが、彼らのおかげで日常で息づくメインキャラクターたちがよりリアルに描かれていた。

日常の中で、成長を描く物語

前作までが試合を中心に描かれていたのに対して、〝進化の夏〞は日常パートが多く盛り込まれている。テスト勉強や強豪校が集まっての合宿など、高校生活ならではのイベントが目白押しだ。

チームメイトたちとふざけ合う姿を見ると、彼らも高校生だったのだと再認識することが出来る。だからこそ、敗北から立ち上がろうと努力をする姿や壁にぶつかり悩む姿は、青春時代特有の眩しさを放って観客の心を掴んでいた。

そうした日常の一幕をより身近なものにさせてくれたのは、マネージャー谷地の存在だったと思う。〝進化の夏〞の前半は、谷地の目線で物語が進んでいく。これも原作にはなかった試みだ。

今まで私たち観客は、あくまで観客という立場から演劇「ハイキュー!!」の世界を覗いていた。完全な第三者に過ぎなかったのだが、今回は谷地を通して登場人物たちを見ることが出来た。

きっと観客のほとんどが、谷地と同じ村人Bだ。だからこそ、共感するところがたくさんあったように思う。彼らが頑張る姿を間近で見ているかのような錯覚を覚えたからこそ、日常を通して描かれるキャラクターたちの成長物語がより心に響いた。

こうして改めて振り返ってみると、〝進化の夏〞はよりキャラクターたちへの愛が深まる作品のように思う。オリジナル要素やアドリブ要素が強かったからこそ、総勢30名以上の俳優たちが皆その場で「生きていた」のだ。

例え台詞がないシーンでも、そのキャラクターらしい動きを見せてくれることで、あっちもこっちも追いかけるのに忙しいという、うれしい悩みを与えてくれた。

〝進化の夏〞でキャラクターたちの成長を見ることができたからこそ、これから繰り広げられる怒涛の試合をより熱い気持ちで追いかけてくれることができる。

高校生たちの青春を応援したい人におすすめの今作、ぜひともその目で楽しんでいただきたい。

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WRITER

水川ひかる
								水川ひかる
							

2.5次元舞台の魅力を全力でお伝えしていきたいと思います。まだまだ駆け出しライター。推しが元気で今日もごはんが美味い!

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