コラム

舞台『血界戦線』の素晴らしさをキャラの再現性、シナリオ、演出の3つの視点から考える

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2019年11月に上演された舞台『血界戦線』。2020年には続編の上演決定という嬉しい情報が告知された。

情報が公開されるたびに小躍りする勢いで筆者は喜んでいる。2020年を生き抜く活力を、舞台『血界戦線』からもらっていると言っても過言ではない。さて、ここまで虜になった理由は何だろうか。

語り出せばきりがないのだが、今回はキャラクターの再現性とシナリオ、演出の3点に絞って、舞台『血界戦線』の魅力を振り返ってみたい。

舞台を未観劇の方々は、どうか少しでも今作品に興味を持っていただけたら嬉しい。観劇済みの方々には、ぜひこの気持ちを共有していただきたい。そんな気持ちでいっぱいだ。

登場人物全員の魅力が光る! 原作へのリスペクトを感じるシナリオ

原作は、内藤泰弘による大人気漫画「血界戦線」。2008年より「ジャンプSQ.」(集英社)で連載を開始し、現在は「ジャンプSQ.RISE」(同)で、セカンドシーズンにあたる『血界戦線 Back 2 Back』が連載中である。

物語の舞台となるのは、かつてニューヨークだった街、ヘルサレムッズ・ロット。一晩で異界と人界が交わり、超常現象や超常犯罪が飛び交うことになったこの街は、「地球上でもっとも剣呑な緊張地帯」と呼ばれている。

深い霧によって外界から隔離された街の均衡を守るため、日々暗躍している組織があった。それがクラウス・V・ラインヘルツ(演:岩永洋昭)率いる秘密結社ライブラ。勘違いをきっかけにライブラの仲間入りを果たしたレオナルド・ウォッチ(演:百瀬朔)は、クラウスらとともに様々な事件へと挑んでいく――というのが概ねのあらすじだ。

今作では、原作のシーズン1が舞台化されている。なんとその量、単行本にして10冊分。これだけのボリュームがぎゅぎゅっと2~3時間の舞台に詰め込まれていたわけだが、観劇すると体感時間はいい意味であっという間だった。

置いてけぼりにされることもなく、説明が過剰になることもなく、気が付けば舞台にのめり込んでいたのだ。時間内に収めるために無理にストーリーが省略された部分もなく、原作の疾走感をそのまま楽しむことができた。

舞台は一幕と二幕に分かれており、一幕では主人公・レオナルドとライブラ構成員の出会いなどが描かれている。各キャラクターたちの代表的なエピソードが原作からピックアップされており、それらがとても丁寧に組み合わされていた。原作を未読でも分かりやすくキャラクターの魅力を描く構成からは、原作への多大なリスペクトが感じられた。

演出・脚本を手掛けたのは西田大輔。原作を大切にしてくれた構成に、感謝の気持ちを抱いたファンも多いのではないだろうか。

原作ファン、アニメファン……すべてのファンが納得する再現度

観劇初日、筆者はクラウスが喋った瞬間に目をかっ開いた。続けて副官のスティーブン・A・スターフェイズ(演:久保田秀敏)が口を開いたときも、驚きのあまり自分の耳を疑った。アニメからそのまま音声を引っ張ってきたのかと思うほどの再現度だったのだ。

舞台よりも先にアニメ化がされている場合、声の調子をアニメに近いイメージで演じてくれるキャストは多い。しかし今作においては、「寄せている」「似ている」という表現では生ぬるいほどの再現性だった。

筆者個人の意見としては、アニメと舞台で声が似ているのかは、そこまで重要ではない。演者の解釈を大切にして演じてほしい、というのが正直なところだ。ただ、「血界戦線」は小山力也や宮本充など、魅力的な声優をきっかけに作品に“落ちた”というファンも多い。そのため、台詞のひとつひとつから先達へのリスペクトが感じられるようで、素直に嬉しいと感じた。

もちろん、筆者が感動をしたのは声だけではない。舞台に立つ全てのキャラクターが、全身から溢れんばかりの魅力を放ち、輝いていた。折角なので、主要キャラクターを中心に、その魅力を振り返ってみよう。

レオナルド・ウォッチ(演:百瀬朔)…今作が初座長とは思えないほど、堂々と演じきっていた。妹・ミシェーラへの独白など、長台詞もお見事。超人たちの中で唯一戦闘能力が低いレオナルドが、妹のために強敵に立ち向かう姿は痛々しくも健気で、そして何より勇敢だった。猪野が演じるザップとの掛け合いには、予測できないアドリブがところどころに散りばめられているのだが、それを百瀬のレオナルドが回収していく。原作さながらの二人の関係性そのままのようで微笑ましかった。

クラウス・V・ラインヘルツ(演:岩永洋昭)…キャラクターの公式プロフィールによると身長201cm。舞台化は不可能なのではと思われたクラウスを、自然な存在感で魅せてくれた。紳士的な立ち居振る舞いと、それに反して戦闘シーンの迫力はさすがの一言に尽きる。原作にある「ゴージャスな獣」という表現がよく似合っていた。

ザップ・レンフロ(演:猪野広樹)…度し難いクズを清々しく演じてくれた。観客を巻き込んだ笑いで劇場を震わせ、日替わりネタの豊富さに、積み重ねてきた経験が垣間見えた。戦闘シーンになると一転してかっこいいという、ザップの良さを全て引き出していた。文字通りの体を張った芝居に、このエピソードを舞台化してくれてありがとうと感謝したファンも多いに違いない。

スティーブン・A・スターフェイズ(演:久保田秀敏)…エスメラルダ式血凍道という、脚をメインとした技を使うに相応しいスタイルが圧巻。温和な顔に隠された冷徹な一面や、哀愁漂う姿には心臓が締め付けられる。伊達男と形容されるに相応しいルックスに、ブロマイドを追加で購入したファンが多いと筆者の周囲ではもっぱらの噂だった。ちなみに私も追加購入組である。

チェイン・皇(演:長尾寧音)…スーツの上からでもわかるスタイルの良さと、肌の透明感に思わず息を飲んでしまった。美女設定というハードルの高さも物ともしない、圧倒的な美貌だった。さらに、クールなだけではなく、酒場での対決から二日酔いというコミカルなシーンも魅力の一つ。

ツェッド・オブライエン(演:伊藤澄也)…世界一かっこいい半魚人、それが伊藤の演じたツェッド・オブライエンだ。被り物と長物という組み合わせにも関わらず、舞台上を駆ける戦闘シーンに目を奪われた。真摯で真面目な性格がそのまま表れたような、凛と伸びた背筋が印象的だった。

K・K(演:安藤彩華)…頼れる皆の姐さん、そして母。包容力と親近感を併せ持ったK・Kだった。赤いロングコートを翻し、銃火器を抱え戦う戦闘シーンは必見。スティーブンとの共闘も見どころだ。

ギルベルト・F・アルトシュタイン(演:萩野崇)…顔のほとんどが包帯で覆われているギルベルトだが、それでも溢れる貫禄と安定感が抜群。ずっと聞いていたい…と思ってしまうような渋い声に加え、紅茶をレオナルドに勧める所作の美しさに思わず心を奪われた。

デルドロ・ブローディ&ドグ・ハマー(演:川上将大)…肉体と血液、それぞれに宿した2つの人格が合わさって1人であるデルドロとドグ・ハマー。アンサンブルと協力しての演出に、舞台ならではの表現方法を見た。快活な笑顔は眩しく、原作通り「顔がいい」。アリギュラが夢中になるのも納得の説得力があった。

ミシェーラ・ウォッチ(演:斉藤瑞季)…可憐で愛らしく、けれど芯のあるミシェーラだった。周囲を明るく照らす笑顔の下で、一人戦い続けていた強さが感動的。二幕では透明感のある歌声を披露し、観客の涙腺を刺激した。兄に優しく語り掛けるシーンは全てを包み込むような包容力もあり、ミシェーラを演じてくれたのが斉藤でよかったと心の底から感謝してしまった。

偏執王アリギュラ(演:甲斐千尋)…かわいい。とにかくかわいい。小さな体躯に収まりきらない破天荒さと愛らしさが、舞台上で見事に炸裂していた。一挙手一投足すべてがアリギュラで、もっと見ていたいと思ったほどだ。顔の半分が仮面で覆われているが、それでもハマーの前では笑顔だと分かる。感情は表情だけで見せるものではないと改めて感じさせてくれる、素晴らしい演技力だった。

Dr.ガミモヅ(演:佐々木喜英)…公演初日まで、役名が明かされていなかった佐々木。原作のDr.ガミモヅとは大きく異なった外見であるが、その怪しさは確かにレオナルドの前に立ちはだかる強敵として異様な雰囲気を漂わせていた。剣裁きが美しかった。ブランクなど感じさせない、圧巻の演技だった。

トビー・マクラクラン(演:丹澤誠二)…佐々木同様、丹澤も公演初日まで役名はシークレットだった。観劇して、まさかの配役に驚いたファンも多いはず。サックスで哀愁漂う音楽を奏でるトビーが見れるとは、誰が予想していただろうか。ミシェーラを一途に愛する好青年を、とてもチャーミングに演じていた。

その他、アンサンブルのメンバーも、全員がそれぞれの役を舞台の上で演じていたのが印象的だった舞台『血界戦線』。トレイシーやアリスなど、物語を進行する上で外せないキャラクターに加え、複数人でパワードスーツを表現していたりと、最初から最後まで舞台を彩る役どころばかりだった。彼らがいたからこそ、異界と人界が交わるパレード感があった。

舞台ならではの表現で作り上げる、ヘルサレムズ・ロットの世界


舞台『血界戦線』を語る上で外せない要素の一つが、舞台後方での生演奏だ。

先述した丹澤のサックスに加え、ドラム(演:KEN’ICHI)、ピアノ(演:安島萌)、ウッドベース(演:玉木勝)が奏でる音色が、独特の世界観を持つヘルサレムズ・ロットの空気を再現していた。ゆったりとした音色と共に物語がスタートする贅沢感は、他で味わうことはできないだろう。

続けて注目したいのは、戦闘シーンの演出。原作者が掲げる「血界戦線」のコンセプトは、「技名を叫んで殴る」である。

「血界戦線」は、血界の眷属と繰り広げられる規格外の戦闘も見どころの一つ。舞台『血界戦線』では、光と音、そして映像をふんだんに使ってバトルシーンが舞台ならではの演出に仕上げられていた。

例えば、VSギリカ戦。血を操る戦闘シーンで、ギリカはリボンを用いた新体操のような動きでスティーブンとK・Kを圧倒していた。ギリカの強さと美しさが際立つ演出は、初めて見るにもかかわらず、しっくりときてわくわくするものがあった。

Dr.ガミモヅやリガ=エルといった異界の住人は、アンサンブルを用いてその巨大さ、強大さを怪しく表現していた。舞台いっぱいを使った縦横無尽な戦闘シーンは、観劇しながら息を飲むこと必至である。

そして忘れてはならない原作のコンセプト、「技名を叫んで殴る」。キャラクターたちが技名を叫んで敵に向かう際、その技名が全面に押し出されるアニメおなじみの演出は、舞台にも受け継がれていた。

背景いっぱいに映し出される技名は、迫力があり、ただひたすらにかっこいい。見ていて純粋な高揚感を覚える、シンプルかつストレートで気持ちのいい演出だった。

改めて振り返ってみると、舞台『血界戦線』は、2.5次元の面白さを直球で伝えてくれる作品だったように思う。生演奏など挑戦的な要素を取り入れつつも、脚本、演出、役者の三本柱でしっかりと作品を支え、原作の面白さを舞台ならではの手法で引き出している。

今、新型コロナウイルスの影響によって心に影が落ちている人も多いだろう。筆者もその一人だ。ほんの少し前まで当たり前のように劇場に足を運んでいた日常が、今では懐かしく思える。そんな中、思い出すだけで心が沸き立つような作品に出会えたこと、そんな作品を作り上げてくれた全ての人たちへの感謝で胸がいっぱいになる。

まだ先の見えない苦しい状況が続くが、ここで作中のクラウスの台詞を思い出してみよう。

「光に向かって一歩でも進もうとしている限り、人間の魂が真に敗北する事など断じてない」

なんとも心強い言葉だ。諦めなければ、きっとまた劇場でお祭り騒ぎを繰り広げる彼らに出会えるに違いない、そう思えてくる。

手始めに、筆者は続編に向けてチケット貯金を始めてみた。再び素晴らしい世界に出会えるその日を、楽しみに待ちたいと思う。

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WRITER

水川ひかる
								水川ひかる
							

2.5次元舞台の魅力を全力でお伝えしていきたいと思います。まだまだ駆け出しライター。推しが元気で今日もごはんが美味い!

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