コラム

【後編】受け継がれし「薄ミュイズム」を紐解く。ミュージカル『薄桜鬼』シリーズの歴史を振り返る

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ミュージカル『薄桜鬼』シリーズを振り返るコラム第2弾となる今回は、7作目以降の作品を紹介していく。

2020年4月開幕予定だったミュージカル『薄桜鬼 真改』相馬主計 篇は、残念ながらプロジェクトが中止となってしまった。

今作で初めて「薄ミュ」に触れる予定だったという人もいるだろう。また本作を記念して各動画サイトで配信されている過去作品(詳細は記事末尾に記載)が気になっているという人もいるだろう。

本記事を通して、2012年の初演から愛されている同シリーズへの愛着を持ってもらえたら嬉しく思う。

ミュージカル『薄桜鬼』黎明録(2015年)

シリーズで唯一ヒロインが登場しないのが、この「黎明録」。本作は、男主人公・井吹龍之介(演:白又 敦)の視点で紡がれる、新選組結成までの物語。

これまで女性向け恋愛ゲーム原作ものの舞台に縁がなく、舞台上でヒロインと若手俳優が演じるキャラクターとの恋愛模様を観る覚悟がない……。という人にはおすすめの作品だ。

新選組がまだ新選組でなかった頃。何者でもない浪士隊として、これから自分たちで道をつくってやるんだという志が燃え上がっていく様を観ることができる作品だ。

そしてそんな“はじまり”の物語にふさわしい、フレッシュなキャスティングも印象的な作品である。

前作から続投しているのは、斎藤 一役の橋本祥平と、山崎 烝役の高崎翔太。そこに新キャストとして沖田総司役の荒牧慶彦、土方歳三役の佐々木喜英、藤堂平助役の小澤 廉、原田左之助役の東 啓介、永倉新八役の猪野広樹、山南敬助役の輝馬らが加わった。

こうやって振り返ってみると、「黎明録」にはいま演劇界で活躍中の話題の俳優が多く出演していたことがわかる。

キャストが大幅に入れ替わるタイミングで、あえて雪村千鶴に出会う前の彼らの物語が描かれた。

初演から追いかけてきたファンも、ここで新たな新選組の幕開けを迎えたことを実感せざるを得なかったであろう。

キャスト変更というのは、ファンにとってはときに悲しみにつながるものだ。しかしこの「黎明録」を挟んだことで、ファンに示されたのは“薄ミュの未来”だったのではないかと思う。

ミュージカル『薄桜鬼』新選組奇譚(2016年)

8作目は、原作ゲームと同一タイトルを冠した「新選組奇譚」。土方ルートをベースに、「黎明録」で語られた前日譚も織り交ぜつつ描かれたストーリーが本作の特徴となっている。

主演は本作から新たに土方歳三役を演じた松田 岳。

彼のルートがメインとなっているが、『薄桜鬼』初心者にも優しい作品といえるだろう。

この作品の本筋となる部分がしっかりと描かれているので、「原作未履修だから話に置いていかれた」という事態になりにくい。

なので、本作を観てから各ルートを観ていくというのもおすすめだ。

ミュージカル『薄桜鬼』HAKU-MYU LIVE 2(2016年)

「黎明録」以降の新生キャスト陣で上演された本ライブ。歴代キャストがスペシャルゲストとして登場するという粋な企画があったり、ゲーム企画があったり。

キャラクター同士がわちゃわちゃしている雰囲気が好きという人は、まずライブ公演から観てみるのもありだろう。

歴史ものをベースとした作品なので、本編はどうしても登場人物たちが命を落としていってしまう。ラストに向けて、重い空気が漂ってしまうのだ。

その重苦しさも、薄ミュの大きな魅力のひとつであることは間違いないのだが、友人知人に気軽に「観て!」と言えるのはライブ公演のほうかもしれない。

和装に身を包んだ見目麗しい侍や鬼たちに、手っ取り早く心奪われてしまうのには、このお祭りがもってこいなのだ。

ミュージカル『薄桜鬼』原田左之助 篇(2017年)

東 啓介主演の「原田左之助 篇」は、5年間築き上げられてきた毛利亘宏版薄ミュの集大成といえる作品だ。

彼が脚本・演出・作詞を手掛けたのは本作が最後となる。初演からのあらゆるエッセンスが凝縮され、研ぎ澄まされた。そんな印象を受ける作品に仕上がっている。

原田左之助は、唯一羅刹化しないメインキャラクター。さらに、原作の原田ルートは他のキャラに比べてかなり大人なムードが漂う。それゆえ、舞台化は難しいのではないかとささやくファンも多かった。

薄ミュの見せ場のひとつである主人公の羅刹化や吸血シーンが発生しない本作。一種の名物としてファンに人気の高いこれらのシーンが登場しないのは少し残念な気もするが、東の演じる原田左之助は余りある色気と男気と歌唱力で、物足りなさを感じる暇など与えてくれない。

なにより、他ルートでは観られないであろう多幸感に包まれたエンディングを味わえるのはこの「原田左之助 篇」である。とびきり甘くて幸せなエンディングを望む人には、ぜひ観てもらいたい作品だ。

また本作から、斎藤 一役が納谷 健に、風間千景役が佐々木喜英になっている。佐々木は過去に土方歳三も演じていた。同一シリーズに別のメインキャラクターとして登場するという珍しい例となったが、それもひとえに彼のキャラクターに対する飽くなき探究心の為せる技なのだろう。

ミュージカル『薄桜鬼 志譚』土方歳三 篇(2018年)

この11作目から、薄ミュは新たな歴史の一歩を踏み出した。本作から、演出が西田大輔へと変更。

新たにタイトルについた「志譚」。これは薄ミュが第2シーズンに突入したことを意味している。

タイトルも改め満を持して上演されたのが、新キャスト和田雅成を主演に迎えた「志譚 土方歳三 篇」である。

演出家は変わったが、脚本は毛利亘宏が担当。ストーリー自体は2013年に上演された「土方歳三 篇」と大きく変わらない。

変わらないのだが、変わらないぶん余計に「演出家によってここまで作品の印象が変わるのか」ということを実感させられる作品となっている。

幾重にも重なった人物同士の感情の厚みを、大胆に切り取り、ドラマチックに魅せる。

そんな西田節が随所に感じられる本作は、以前の「土方篇」とは同じようでいてまったくの別物になっている。

魅せ方による違いに注目しながら2作品を見比べてみるのも面白いだろう。

また新シリーズスタートということで、キャストも大幅に変わっている。

山﨑晶吾や中河内雅貴、樋口裕太、岸本勇太、椎名鯛造、兼崎健太郎といった顔ぶれが加わり、前作とはまた違った風が吹いている点にも注目してみてほしい。

ミュージカル『薄桜鬼 志譚』風間千景 篇(2019年)

前作と同じく毛利脚本、西田演出で上演された本作。主演には、様々なミュージカル作品で活躍する中河内雅貴。

彼の圧巻の歌声が、鬼として生きる風間の信念を劇場のすみずみにまで届けていたのが印象に残っている。

「風間千景 篇」は2014年にも上演されているが、本作ではラストの脚本が大幅に変更され、違ったエンディングをみせてくれた。

そういった意味では、新作ともいえる作品だ。

西田の演出は、視覚に訴えかける絵づくりのうまさがあると筆者は感じている。本作では血しぶきに見立てた桜の花びらが舞い、命の終わりを1枚の絵画のようにみせてくれた。

「風間篇」はタイトル『薄桜鬼』の言葉の成り立ちが語られるルートなのだが、これでもかと舞い落ちてくる桜吹雪のその美しさと物悲しさに、心締め付けられたファンも多いはず。

シリーズのなかでも、とくに西田らしい演出を味わえるのがこの作品ではないかと思う。

激動の時代を経て、「薄ミュ」はついに次の時代へ

そして、2020年。ついに始動する新章……とファンが待ち望んでいたミュージカル『薄桜鬼 真改 』相馬主計 篇。残念ながら上演は叶わなかった。

だが、脈々と受け継がれてきた薄ミュの志は、作中の激動の時代を生きた彼らのように、揺るぎない形でいつの日にか観客に届けてもらえると筆者は信じている。

未来で咲き誇る満開の桜のもと、その不変の志に出会えることを祈りたい。

ミュージカル『薄桜鬼』シリーズ アーカイブ配信詳細

▼配信作品▼
ミュージカル『薄桜鬼』斎藤 一 篇
ミュージカル『薄桜鬼』沖田総司 篇
ミュージカル『薄桜鬼』土方歳三 篇
ミュージカル『薄桜鬼』HAKU-MYU LIVE
ミュージカル『薄桜鬼』風間千景 篇
ミュージカル『薄桜鬼』藤堂平助 篇
ミュージカル『薄桜鬼』黎明録
ミュージカル『薄桜鬼』新選組奇譚
ミュージカル『薄桜鬼』HAKU-MYU LIVE 2
ミュージカル『薄桜鬼』原田左之助 篇
ミュージカル『薄桜鬼 志譚』土方歳三 篇
ミュージカル『薄桜鬼 志譚』風間千景 篇

▼配信サイト
■配信期間:2020年3月13日(金)~2020年6月30日(火)
・DMM.com https://www.dmm.com/digital/stage/
・dアニメストア(順次配信) https://anime.dmkt-sp.jp/animestore/series_pc?seriesId=S0000633
・FOD(順次配信) https://fod.fujitv.co.jp/
・GYAO!ストア https://gyao.yahoo.co.jp/store
・MOVIEFULL http://m.mful.jp/
・music.jp https://music-book.jp/video/
・OnGenムービー http://sp.movie.ongen.net/
・Rakuten TV https://tv.rakuten.co.jp/series/124861/
・U-NEXT(順次配信) https://video.unext.jp/
・アニメ放題(順次配信) https://animehodai.my.Softbank.jp/lp/sp/alpha/spv/
・ビデオマーケット https://www.videomarket.jp/series/339
・ムービーフルPlus http://mfplus.jp/
・萌え動画がいっぱい http://moepai.jp/

■配信期間:2020年3月16日(月)~2020年6月30日(火)
・360Channel(順次配信) https://www.360ch.tv/category/12

■配信期間:2020年3月21日(土)~2020年4月1日(水)
・ニコニコ生放送 https://blog.nicovideo.jp/niconews/
各作品の配信開始日は配信サービスによって異なります。詳しくは、各配信サービスの公式サイトをご確認ください。

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公演情報

タイトル

ミュージカル『薄桜鬼 真改』相馬主計 篇

公演日程

【東京】
2020年4月2日(木)~5日(日)
明治座(特別公演)

【大阪】2020年4月9日(木)~12日(日)
サンケイホールブリーゼ

※全公演中止

キャスト

相馬主計:梅津瑞樹 雪村千鶴:松崎莉沙/
土方歳三:久保田秀敏 沖田総司:山﨑晶吾 斎藤一:大海将一郎 藤堂平助:樋口裕太 原田左之助:川上将大 永倉新八:岸本勇太 山南敬助:輝馬 山崎烝:椎名鯛造 近藤勇:井俣太良/風間千景:佐々木喜英 天霧九寿:横山真史 不知火匡:末野卓磨 雪村綱道:川本裕之 他

原作

オトメイト(アイディアファクトリー・デザインファクトリー)

演出・脚本

西田大輔

チケット情報

公式サイトを参照

公式HP

https://www.marv.jp/special/m-hakuoki/

公式ブログ

http://m-hakuoki.jugem.jp/

公式ツイッター

@m_hakuoki

公演に関するお問い合わせ

https://www.marv.jp/support/st/

主催

ミュージカル『薄桜鬼』製作委員会

(c)アイディアファクトリー・デザインファクトリー/ミュージカル『薄桜鬼』製作委員会

WRITER

双海 しお
 
								双海 しお
							

アイスと舞台とアニメが好きなライター。2.5次元はいいぞ!ミュージカルはいいぞ!舞台はいいぞ!若手俳優はいいぞ!を届けていきたいと思っています。役者や作品が表現した世界を、文字で伝えていきたいと試行錯誤の日々。

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