コラム

観客を巻き込む力のうねり……『Fate/Grand Order THE STAGE -絶対魔獣戦線バビロニア-』に心動かされた理由

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2019年1月に上演された『Fate/Grand Order THE STAGE -絶対魔獣戦線バビロニア-』。アプリゲーム『Fate/Grand Order』のメインストーリーのうち、第1部7章を原作とした舞台作品である。

2019年秋からは同ストーリーのアニメ版も放送されており、アニメをきっかけにゲームに興味を持ったという人もいるかもしれない。

アニメも放送され「絶対魔獣戦線バビロニア」が注目されているいま、改めて舞台版FGOバビロニアを振り返ってみたい。アニメとはまた違った力強さと生命力に溢れた本作に、筆者はなぜ激しく心動かされたのか。その理由を考えてみた。

ウルクの民も、神も、存在している。観客を古代メソポタミアに誘う仕掛け

人と神がともに在る世界、それが本作における古代メソポタミアだ。

人類最後の生き残りであるマスター(演:大海将一郎・坂本澪香Wキャスト)は、マシュ(演:ナナヲアカリ)と共に、特異点バビロニアにレイシフトし、人理修復を目指すことになる。

観客は、ゲームをプレイしていれば、ゲーム内での古代メソポタミアの都市・ウルクの世界観は知っているだろう。だが紀元前の話だ。もちろん誰もがその世界を“肌”で知っているわけではない。

その街の温度感を強烈に知らしめてくれるのが、本作の主役であるギルガメッシュ(演:丘山晴己)の、クセが強すぎる登場曲だ。

この曲は、一見ネタに走ったのかと思うようなコミカルな歌詞なのだが、その時代における民の繁栄と、ギルガメッシュ王の賢王たる所以。悲壮感など一切感じさせずに、毎日を前向きに生きている人々。そんな情景を一気に観客に想起させる楽曲となっているのだ。

その後、アンサンブルとひとくくりにしてしまうのは申し訳ないと思うほど、生き生きとしたウルクの民の生活が随所で登場する。実は、彼らは表記上はアンサンブルとなっているが、それぞれ民としての役名を持って演じている。

その表に出てこない設定は、間違いなく彼らをより“ウルクの民”にしていただろう。

こうして、観客はまず、想像もできない昔に生きる人々の存在を、隣人のように感じることになる。

次に、神や魔獣などの人あらざるものについて触れていきたい。本作のラスボスであるティアマトも含め、ゴルゴーンや魔獣、ラフムなど、人ではないものの存在が多く登場するのがこの7章である。

正直、ここ数年の技術を考えれば、その多くをプロジェクションマッピングを用いて、もっと完璧に忠実に表現できただろう。

しかし、あえてそうしていない。

巨大なセット、マンパワーを使っての表現、アンサンブルの表現力。映像で“完璧な正”を見せるのではなく、人の手の熱を加えた表現で、観客ひとりひとりの“心が思い描く質感”に頼っている。そんな印象を抱かずにはいられなかった。

ステージの上と観客が一体となって空間を作り上げる舞台作品。そんなメディアだからこそ可能な、ゲームともアニメとも違う“作り手からの挑戦状”のような演出にも感じた。

また、そういった映像以外の表現を陳腐にさせない、という強い意思を感じさせる豪華で手の込んだセット・小道具・衣装も必見である。必死に見入っているうちに、気がつけば古代都市に吹く風を肌に感じているはずだ。

エンタメと絶望を両立させる絶妙なバランス感覚

7章は第1部の最終章へと向かう、人理修復の旅のクライマックスともいえる章だ。倒さねばならぬ敵も、もはや人ではなく神。強大すぎる敵を前に、絶望がそこらじゅうに満ちていてもおかしくない。

ストーリーだけを追っていくと、もっとシリアスな作風になったであろう。

だが本作ではあえて“陽”のシーンが積極的に取り入れられている。

前述したギルガメッシュ王の登場曲をはじめ、ロマニ(演:井出卓也)とマーリン(演:瑛(あきら))のアイドル風デュエット曲や、マスターとイシュタル(演:八坂沙織)の某通信販売を思わせるやり取りなど。

コミカルなシーンが強調されていることで、絶望的な展開が続く旅ではあるが、カルデアの希望はついえていない。人類の希望はまだそこにある。そう感じさせてくれるのだ。

そして極めつけは、ケツァル・コアトル(演:赤井沙希)のプロレスショーである。

これは観劇した人がみな覚えているシーンだろう。プロレスラーとしても活躍する彼女にしか出来ないであろう技の数々。もちろん、キャラクターとしてケツァル姉さんを崩すことはない。

観劇していない人には、何を言っているのか……と思う内容だと思うが、数分間劇場がプロレスリングとなる感覚は、本作の醍醐味のひとつだ。こうして、本作は圧倒的なエンタメ力を観客に浴びせてくるのである。

エンタメとして陽の数値が高くなればなるほど、もう1人の主役であるエルキドゥ(演:山﨑晶吾)を軸とした陰のシーンが、重く心にのしかかってくる。

キングゥとして惨殺を繰り返すシーンでは、「せめてこの子だけは」と叫びながらも無残に殺される妊婦が描かれ、彼女の死に絶望する夫が傍らにいる。ただアンサンブルとして殺されるのではなく、あえて彼らのこれまでの生き様を添えているのだ。

アニメでもトラウマシーンといわれているラフムの登場シーンも、舞台版はまた違った意味で残酷だ。なにせ、人がラフムに変えられていくシーンが、目の前で繰り広げられるのだから。

とことん明るく、とことん重い。どちらにも振り切った内容は、まるで“ウルク”という人物の半生を観ているようにドラマチックであった。

“真の主人公”はウルクの民であり、我々である

最後の戦いの朝、日が昇るとギルガメッシュ王はウルクの民に演説をする、というシーンがある。ここまでの戦いで生き残ったウルクの民は約500人。そんな彼らに、王は2階席と目線が合うほどの高さにあるセットの頂上から語りかける。

このとき、王はステージ上にいるウルクの民を見るのではなく、観客に向かって演説をするのだ。

この演出により、観客は「自分たちもまたウルクの民だ」と強く思うことができる。

500人というのは、ちょうど上演された劇場の全客席の半分ほど(日本青年館ホールでは2階席、サンケイホールブリーゼでは1階席の席数に近い)。ここでも、私達は体感として500人がいかに少ない人数であるかを思い知らされるのだ。

滅びゆく運命にあると知りながら、声高らかに王は民に語りかける。丘山の熱演が民=観客の心を奮い立たせ、そこから続く怒涛の最終決戦へと導いてくれる。そして私達は、誰もがウルクの民として劇場を後にしたのだ。

この演説シーンは劇場で味わうのにもっとも適した演出なので、DVD・Blu-rayではその迫力は少しだけ薄れてしまうかもしれない。

それに、原作のストーリーが長いこともあり、舞台版では省いたエピソードや登場しないサーヴァントもいる。

それでも、舞台版には舞台版の完成された「絶対魔獣戦線バビロニア」の世界がある。アニメで本作が気になっている人も、この機会に懸命に楽しく強く生きたウルクの民になってみるのはどうだろうか。密かに再演を心待ちにしながら、ウルクの民がひとりでも増えることを願っている。

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公演情報

タイトル

Fate/Grand Order THE STAGE -絶対魔獣戦線バビロニア-

配信ページ

Fate/Grand Order THE STAGE -絶対魔獣戦線バビロニア- 女性マスターver.(31日間無料トライアル・U-NEXT)
Fate/Grand Order THE STAGE -絶対魔獣戦線バビロニア- 男性マスターver.(31日間無料トライアル・U-NEXT)
※配信サイトにアクセスします。

原作

Fate/Grand Order(FateRPG)

脚本・演出・作詞

福山桜子

音楽

大塚 茜

キャスト

ギルガメッシュ:丘山晴己
エルキドゥ:山﨑晶吾  ※「﨑」のつくり上部は「立」

藤丸立香:大海将一郎/坂本澪香(Wキャスト)
マシュ・キリエライト:ナナヲアカリ

マーリン:瑛(あきら)
アナ:桑江咲菜
イシュタル:八坂沙織
エレシュキガル:川村海乃
ケツァル・コアトル:赤井沙希
ゴルゴーン:護あさな
シドゥリ:門山葉子

レオナルド・ダ・ヴィンチ:RiRiKA

ロマニ・アーキマン:井出卓也

奏者:美鵬直三朗

アンサンブル:加藤貴彦 前原雅樹 西田健二 穴沢裕介 増山航平 早川一矢 KiKi 田口恵那
大久保芽依 竹井未来望

街の民:野崎みちる 千葉由香莉 萩原梨美子 飯嶋みずき 外井咲和子 古城戸美穂 脇領真央

公演期間、劇場

<大阪>
2019年1月11日(金)~1月14日(月)
サンケイホールブリーゼ

<東京>
2019年1月19日(土)~1月27日(日)
日本青年館ホール

チケット料金

9,000円(税込・全席指定)

チケット一般販売日

後日発表

チケットの取り扱いについて

イープラス
http://eplus.jp/stagefate-go/

チケットに関する問い合わせ先

イープラス
0570-06-9948 (全日10:00~18:00)

公演に関する問い合わせ先

アニプレックスカスタマーセンター
03-5211-7555 (平日10:00~18:00)

公式ホームページURL

https://stage.fate-go.jp/

WRITER

双海 しお
 
								双海 しお
							

アイスと舞台とアニメが好きなライター。2.5次元はいいぞ!ミュージカルはいいぞ!舞台はいいぞ!若手俳優はいいぞ!を届けていきたいと思っています。役者や作品が表現した世界を、文字で伝えていきたいと試行錯誤の日々。

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