2.5次元という単語が世間の浸透し始めた昨今。連日魅力的な作品が公演されており、日々劇場に足を運んでいるという方も多いだろう。
その中でも、思い出すだけで胸がときめく、高揚する、前を向いて頑張ろうという活力が溢れてくる。――そんな特別な作品との出会いは、きっと奇跡と呼ぶのが相応しい。
私にとっての奇跡、それは「ハイパープロジェクション演劇 ハイキュー!!(以下、演劇「ハイキュー!!」)との出会いだった。
原作ファンの期待を容易く超えてくれる、演劇「ハイキュー!!」との出会い
演劇「ハイキュー!!」は、2015年に初演が公演され、現在はシリーズ8作目の〝飛翔〞が公演中の大人気作品である。
原作は、古舘春一による少年漫画『ハイキュー!!』。宮城県立烏野高校排球部のエース、「小さな巨人」に憧れた小柄な少年、日向翔陽が仲間たちと共に全国大会を目指していくという正統派のスポーツ漫画だ。
一人では決して見ることのできない「頂の景色」を見るために、仲間たちと力を合わせてライバル達に挑む姿は、熱く眩しく素晴らしい。
魅力的なキャラクターや熱い試合展開と、数多のファンの心を掴んで放さないこの『ハイキュー!!』だが、筆者も心を鷲掴みにされたうちの一人である。
数ある原作の名勝負の中でも、筆者の心に特に印象に残っているのは、宮城県代表を決めるための怒涛の試合展開だ。
及川徹率いる青葉城西高校との因縁の対決、そこから続く絶対的エース牛島若利有する白鳥沢高校との決勝戦は、手に汗を握りながら応援をしたという読者も多いだろう。
このエピソードが舞台化されると発表された時、筆者は喜ぶと同時にほんの少しだけ不安を抱いたというのが本音だ。
その不安とは、2.5次元舞台にはつきものであろう「この熱い展開が果たして舞台上でどう再現されるのか……!?」というものである。――が、結論からお伝えさせていただきたい。私の不安は、まったくの杞憂であった。
むしろそんな不安を見事に飛び越え最高の奇跡を見せてくれたのが、演劇「ハイキュー!!」第6作目となる〝最強の場所(チーム)〞だった。出来ることならばもう一度、あの熱量を会場で感じたいと強く願っている作品だ。
臨場感爆増し! 一期一会の音楽
〝最強の場所(チーム)〞の見どころの一つは、間違いなく音楽だった。というのも、楽曲・演奏を務める音楽家・和田俊輔がステージで生演奏を披露していたのだ。
全44公演、ステージ上で披露される曲はその場の空気に合わせた即興もあったというのだから驚きである。まさに一期一会、舞台上のその日の空気を反映してくれている音楽には、観劇をしていて何度も心を揺さぶられた。
烏野にとっては、常に勝つか負けるかわからない真剣勝負が続く。その勝負を後押ししてくれたのが、臨場感が溢れる音楽であった。時にブブゼラなど一風変わった物を用いてステージを盛り上げてくれた音楽は、演劇「ハイキュー!!」ならではの魅力と言えるだろう。
手に汗握る、怒涛の試合
第一幕は、烏野高校と因縁のライバル、青葉城西高校との試合である。
主将・及川徹(演:遊馬晃祐)のジャンプサーブは、前作よりも圧倒的な迫力で烏野を追い詰める。影山飛雄(演:影山達也 ※当時)が唯一怖いと称する大王様及川徹率いる青葉城西は当然強敵であるが、完璧なチームではない。
長く休部していた京谷賢太郎(演:北村健人)が同学年のチームメイト達とぶつかったり、不完全さもある。しかしそれを超えて絆を深めていく選手達の姿も、この試合の見所だ。
特に及川と副主将岩泉一(演:小波津亜廉)の幼馴染として積み重ねてきた絆が生み出す超ロングセットアップは、まさに「エモい」の一言に尽きる。主人公校、そしてライバル校、全員が成長を遂げた末の決着は涙なしでは語れない。観客全員の心に、強く刻まれる試合となったことは間違いなしだ。
続く第二幕は、絶対王者白鳥沢との決勝戦。
エース牛島若利率いる白鳥沢高校は、前作までチームメイト達は映像での出演だった。今作で全員が実際にステージに立った姿は、圧巻の一言に尽きる。平均身長180cm超えのキャスト陣は、王者を語るに相応しい風格を漂わせて烏野の前に立ちはだかる。
実際に、白鳥沢のキャスト陣にはバレーの経験者も多いというのも試合に説得力を持たせてくれていた。中でも牛島若利役の有田賢史は、まさに大エースの肩書に相応しい魅力的なキャスティングだった。
加えて、牛島に半ば妄信的に尽くすセッター白布賢二郎役の佐藤信長と有田賢史は、高校時代に対戦をしたことがあるという、これまた「エモい」エピソードもあるのだ。
実力も何もかもが格上の白鳥沢に対し、必死に食らいついて行く烏野の迫力は圧倒的な熱量を持って舞台上で輝いていた。どちらも超攻撃型チームのぶつかり合いであるこの試合は、とにかく激しい。とんでもない運動量に、観ている側なのに汗をかいたのは私だけだろうか。
そんな試合の中、今までクールさが目立っていた月島蛍(演:小坂涼太郎 ※当時)の演技は特に光るものがあった。
彼の成長が、牛島から「100点の1点」をもぎ取り、チームを勝利へと導く一手となるのだ。原作でも屈指の名シーンを全力で演じてくれたキャスト陣には、感謝の気持ちでいっぱいである。
舞台上で輝く、青春の群像劇
長きに渡るライバルチームとの決着が着いた今作で、主人公校烏野高校のキャスト陣は全員卒業が決まっていた。
舞台にとって、キャストの卒業というのは決して避けては通れない道だ。今まで見守っていたキャスト陣の姿をもう見ることが出来なくなると思うと寂しく切ないが、それが3年間という眩しい高校時代を駆け抜けていくキャラクター達の姿と妙にリンクしてしまい、感慨深いものがあった。
そして今、前キャスト陣からのバトンを引き継いだ新生烏野の物語も始まっている。想いを託された新生烏野が、個々の成長を見せてくれる演劇「ハイキュー!!」〝飛翔〞である。
筆者は先日ゲネプロ、本公演と観劇をしたが、こちらもぜひ会場で観ていただきたい作品のひとつだ。
〝最強の場所(チーム)〞で烏野高校の全キャストが卒業して以来、新生烏野を待つファンの胸中には、寂しさや期待など、さまざまな思いが駆け巡っていたことだろう。
しかし新生烏野は、そんな私たちファンの気持ちもしっかりと受け取り、頂へ羽ばたく姿を見せてくれた。
特に日向翔陽(演:醍醐虎汰朗)、影山飛雄(演:赤名竜之輔)がそれぞれの成長を遂げる姿には、バレーに対するひたむきさが表れていて何度も心の中でエールを送ってしまったほどだ。
シリーズの全作品を通して、演劇「ハイキュー!!」は、瞬く間に過ぎてしまう青春の眩しさを、見事に舞台上で表現してくれたのだ。
筆者は成人して久しいが、演劇「ハイキュー!!」を観ている間は、まるで高校時代の青春ど真ん中にいるような高揚を覚えた。観劇中だけではない。こうして舞台の思い出を振り返る今も、視界がきらきらと輝き眩しさを増していく。
思い出すだけでこうした幸福を感じられる程の舞台に出会えたこと――やはり私にとって、これは奇跡と呼ぶに相応しい。今も胸に溢れて止まらない感動が、これを読んで下さっている方に少しでも届いていたら幸いである。
そしてどうか、一人でも多くの方が「奇跡」と呼べる舞台との出会いを果たせますようにと密かに願っている。きっと毎日が、驚く程の輝きに満ち溢れるはずだから。
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