2.5次元舞台の楽しみ方は様々だ。
原作の再現度を堪能したり、推しの役者がいれば彼の演技を楽しんだりするだろう。
考察が好きなら観劇後に各シーンに秘められた意図を探ってみたり、照明や演出の真意に思いを巡らせることもあるかもしれない。
もちろん単純に役者やキャラクターがどうしようもなく好きで、「好き!」で始まって「好き!」で終わることもある。
今回はそんな楽しみ方のうちのひとつ“成長を見守る”という楽しみ方に焦点を当ててみたいと思う。
“成長を見守る”ってどういうこと?
舞台はもともと完成されたものがステージ上で披露されるものである。
それなのに“成長を見守る”とはどういうことだろうか。
矛盾を感じる人もいるかもしれない。
2.5次元舞台に関していえば、“成長を見守る”楽しみ方もできますよ、という話が出てきたのはテニミュことミュージカル「テニスの王子様」の1stシーズンの頃だったと記憶している。
現状ほど2.5次元舞台というものが普及しておらず、2.5次元舞台=テニミュというくらいであった。
裏を返せば、他に目立った2.5次元作品はそう多くなかったということだ。
当時もテニミュのキャスティングは有名無名を問わず、いかにそのキャラクターの芯に通じる部分を持っているか、という点が重視されていた。
その結果、出演が決まる俳優たちはテニミュが初舞台、テニミュが初仕事という人が今に比べてとても多かったのだ。
彼らも数ヶ月に渡る稽古をみっちりと受けて本番に臨む。
初日できちんと作品として仕上がっているというのは大前提としてもちろんクリアしている。
しかし、まだ駆け出しの彼らの“伸びしろ”は凄まじいのだ。
「テニスの王子様」の主人公・越前リョーマや青春学園の面々が試合の中で常に進化し、実力をつけていくのと同じである。
キャスト陣は越前リョーマよろしく、1つの演目、いや下手をしたら1公演のなかで本番でしか獲得できない経験値を積み上げどんどんレベルアップしていくのだ。
前日から比べると些細な変化やレベルアップなのだが、例えば2ヶ月続く公演の初日と千秋楽で比べると驚くべき成長を遂げていることがある。
この楽しみ方こそが、まさしく“成長を見守る”楽しさなのだ。
これは玄人俳優が多数出演するような舞台ではなかなか味わえない体験だろう。
成長を見守ることと2.5次元作品の親和性
成長を楽しめてしまうくらい伸びしろがあるということは、未熟といわれればそれまでである。
これは原作のジャンルや登場キャラクターたちによっては許されない状態だ。
たとえば、何かを極めたとある分野の第一人者だったり、圧倒的な力の差を見せつけるカリスマだったり。
そういうキャラクターを演じるのなら、2.5次元であったとしても伸びしろが目立ってしまうのはあまり良くないだろう。
一方で相性の良いジャンルもある。
“成長”をテーマにした作品だ。
さらに言えば、努力と汗で上へと駆け上がっていくスポーツものとはとくに相性がいいのではないかと思う。
キャラクターと演じるキャスト陣の伸びしろがシンクロし、どちらにも感情移入がしやすくなる。
「テニミュ」はもちろんだが、「ペダステ」や「ハイステ」なども同じことがいえるだろう。
これらの人気シリーズの共通点は、スポーツものというだけでなく、舞台としてシリーズ化している点である。
シリーズ化されている作品は、2時間や3時間で成長していく過程を切り取っている。
その数時間でそのキャラクターが完全に成長しきった“完成形”までたどり着いていなくてもいいのである。
多少未熟に思える部分があったとしても、成長過程として捉えることができるのだ。
公演ごとにパワーアップしていく姿は、それこそまるで少年漫画の主人公のようで、筆者のようにワクワクしてたまらないという人も多いだろう。
大きな壁・キャスト変更とどう向き合うか
成長や伸びしろを同じシリーズで見守っていくためにはキャストの続投が必要不可欠となる。
“成長を見守る”楽しみ方の場合、定期的にやってくる大きな壁がキャスト変更といってもいいだろう。
さきほど挙げたシリーズ作品もそうだが、シリーズが長く続くがゆえに最初から最後まで同じキャストで観ることが叶わないもどかしさもある。
中盤まで物語が進んで、これからやっとキャラクターが大きくステップアップしていく! それを演じている姿がようやく観られる!
というタイミングでやって来てしまうキャスト変更に心かき乱されたことがある人も少なくないだろう。
とはいえ、キャスト変更が悪といいたいのではない。
年単位で続いていく作品ならそれはあって当然のものである。
そうなったとき、卒業していくキャストを追いかけて他の作品を観に行ったり、新キャストの成長を追いかけたりと、取る行動は人それぞれだろう。
キャスト変更はまた次の成長を見届けたい人やコンテンツを探すきっかけになるかもしれない。
キャスト変更との気持ちの折り合いの付け方を、自分なりに探していくことが大事だろう。
“成長を見守る”楽しさは底なし
一度この楽しさや感動を知ってしまうとなかなか抜けることができない。
“成長を見守る”楽しみ方も、この観劇という趣味を底なし沼化しているひとつの要素なのではないだろうか。
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