次々とうまれる2.5次元舞台。そのなかで主流といえるジャンルはおそらく少年漫画原作のスポーツものだろう。
少し思い浮かべるだけで、「テニミュ」や「ペダステ」、「ハイステ」なんかが思い浮かぶ。
いずれも原作人気が高いのはもちろん、舞台化作品もシリーズ化され長年ファンに愛されている。
こういったなにかに青春を賭け、日々を駆け抜ける青少年たちの姿を描く作品というのは、昔から愛されてきたいわば王道ジャンルである。
しかし、なぜここまで2.5次元化されたこれらの作品が多くの観客を魅了しているのか。
このジャンルに魅了されている者のひとりとして、その理由を考えてみたいと思う。
舞台を創り上げる過程そのものが“青春”
筆者は舞台を観客席で観るだけに飽き足らず、そこに至るまでの時間に思いを馳せて勝手に感動してしまいがちなタイプの観劇ファンである。
観劇中にはもちろんストーリーに没頭している。ただでさえ目が足りないことが多いので、うっかり考え事をしている暇はない。
が、カーテンコールの瞬間などにちらりと脳裏をよぎるのである。
いま目の前で観せてもらったこの完成形に到達するまでに、座組が過ごしてきた日々が。
普段そういったことが脳裏をよぎらない人も、少し想像してみれば、彼らが費やしたであろう時間や苦悩が感じ取れるのではないだろうか。
私達観客は、完成された作品を提供される側だ。
チケットを取ってお金を払って……というのはもちろん必要だが、当日は座席に座っていれば目の前の幕は上がる。
そして“Show must go on”、お芝居はカーテンコールまでノンストップで続いていく。
ゼロから作品や関係性を積み上げ、一時停止ができない一度切りの公演に挑んでいく姿。
それはチームメイトに出会い絆を育み、練習に明け暮れ、目指すべき夢の晴れ舞台へと上り詰めようとする少年漫画に登場するキャラクターたちの姿そのものではないだろうか。
無名の新人時代から2.5次元舞台に出演し、じょじょに人気俳優への道を歩んでいく人はとても多い。この姿もまた、少年漫画の主人公感が強くついワクワクしてしまう。
ゼロからスタートした主人公がグングンと成長し頭角を現し、いつの間にか誰もが無視できない輝きを放つ。
2.5次元舞台における俳優はその存在自体がマンガの主人公のようにドラマチックなのだ。
そんな彼らが青春のストーリーを演じるとき、観客は二重の意味で青春を“体感”することとなるのかもしれない。
ストーリーだけにとどまらない。青春を自ら体現する役者という存在が青春ストーリーに“リアル”を与え、観客の心を奪い去っていくのではないだろうか。
まるでマンガのように流れる汗が物語るもの
舞台に立つ役者の運動量の多さに驚くことがある。これは筆者がもっぱら運動をしない生活を送っているせいもあるかもしれない。
しかし、社会人の平均的な運動量を考えても、役者というのは短時間でかなりの運動をこなしているだろう。
さらにウィッグや衣装、照明も当たる。これらの要素を考えれば、ステージ上で滝のように汗が顔を伝っているのも納得である。
他の舞台でも同様なことが起こるので、これはなにも2.5次元舞台のみに当てはまる特徴ではない。
しかしマンガやアニメを舞台化する作品においては、この汗もまた再現度を高める要素のひとつになり得る、というのが2.5次元作品の面白いところではないだろうか。
ただの汗が、役者の運動量や熱量を伝えるだけでなく、そこにキャラクターらしさ、ひいてはキャラクターの“生きている”様子を描写することにつながる。
キャラクターが生身の体を持って存在するということを、視覚で理解させてくれるのだ。
さらにスポーツやバトルに青春を賭けるというストーリーが加わってくると、その汗に込められた意志や思いが新たに付加されていく。
これはなにも汗に限ったことではないだろう。嬉し涙・悔し涙なんかも同じく、キャラクターの存在の証になる。
推しキャラクターが立って動いて喋って……。それだけでファンにとっては天地がひっくり返るほどの衝撃的な光景である。
加えて汗を流し涙をこぼしていいたら、原作ファンが思わず「尊い……」と口にしてしまうのも頷くほかない。
2.5次元舞台初心者にこそおすすめの青春モノ
汗を流しなにかに打ち込む姿は、それがアニメであれ実話であれ心揺さぶられるものである。
誰しもなにか「頑張ろう」と思ったことは一度はあるのではないだろうか。
マンガの主人公レベルで努力することは難しいとしても、目標を持ったりそれに向かって頑張ってみたりすることはそう珍しいことではない。
だからこそ、ひたむきに目指す場所に向かって走り続ける彼らの姿を観て、その大変さやすごさを推し量ることができる。
2.5次元舞台というと、見た目や声の再現度ばかりが声高に評価される風潮がある。
しかし、実際観劇してみるとそれだけではないことがわかるだろう。
とくに青春モノは感情を乗せやすいジャンルなので、存分に熱量を受け取ることができるのではないだろうか。
もし周りに「舞台は興味あるんだけどなかなか……」という知人がいたら、スッと青春モノの舞台の円盤を差し出してみると新たな観劇仲間が生まれるかもしれない。
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